2020年1月24日金曜日

バーチャル店員の流行

AIが、知らない間に私達の社会の隅々に入り込んでいたように、世界そのものをデジタル化する技術が社会の有り様を変えていきつつあります。
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、それに、MR(複合現実)と呼ばれるものがそれです。
これらにより、いつか、映画『マトリックス』のように、この世界は、実は既に、コンピューターが作った仮想世界にすり替わっている・・・といったことが起こるかもしれません(既にそうなっているという説もありますが)。
そこで、実際に仮想世界を作り、活用している事例として、現在、注目を集めている「バーチャル店員」を取り上げてみようと思います。
しかし、お話は、もっと簡単な「バーチャル受付」からにします。

◆バーチャル受付
企業や役所、空港等には受付があり、相談担当者が客に対応しています。
しかし、多くの場合、テレビ電話を使えば、人間が受付にいなくても、人々の相談に対応出来ます。
テレビ電話の画面に映る相談担当者の姿は、アニメの動物か何かだと楽しいかもしれません。しかし、ただのアニメでは、単調な反応しか出来ません。
そこで、相談担当者をアバター化することが考えられます。
アバターとは、人間の分身のキャラクターで、元の人間とは姿形は違っていても、テクノロジーの力で、アバターを元の人間と同じように動かすことが出来ます。
バーチャル受付では、アバターは、相談担当者の分身です。
相談担当者は、客が見ている画面内では、ひょうきんなライオンのアバターに変換され、相談担当者が顔を動かすと、同じようにライオンが顔を動かすようなことが出来ますし、ウインクや笑顔も、アバターで再現することが可能です。
姿だけでなく声も、リアルタイムで、男性の声を女性の声に、あるいは、大人の声を子供の声に変換出来ます。
このようにして、好感を与える姿や声のアバターで相談者に対応すれば、好ましい効果が現れると思います。
例えば、臆病な子供が相手の場合は、可愛らしいアニメキャラクターのアバターと声で対応するといったようにです。
この技術は、教育用途、医療相談、介護用途等にも活用出来そうだと分かると思います。

◆バーチャル店員
上の、バーチャル受付より高度な技術が活用されているのが、現在、流行の兆しのあるバーチャル店員です。
これは、ただのテレビ電話での対応を、はるかに超えます。
それは、例えば、こんなものです。
お店の中に大き目のスクリーンを設置し、その中にバーチャル店員が現れます。
バーチャル店員は、可愛い猫人間のようなアバターとして登場すると、客を喜ばせるでしょう。
そして、そのバーチャル店員は、まるで本当にお店の中にいるかのように振る舞うことが出来ます。
なぜ、そんなことが出来るのでしょう?
実は、どこか遠くに居るバーチャル店員役の人間には、お店の中の様子が3次元的に見えているからです。
その仕組みはこうです。
お店の中では、複数台のビデオカメラで店内や商品、客を撮影し、その複数のカメラが捉えた映像データをコンピューターで合成して3次元化し、その3次元映像を遠くにいるバーチャル店員のパソコンにネットで送信します。
その3次元映像を、バーチャル店員役の人は、HMD(ヘッドマウントディスプレイ。頭に装着し、視界を覆うディスプレイ)で見ます。すると、その店員には、店内にいるのと同じように、店内の様子が360度の立体で見えるのです。
その店員が顔を動かすと、HMDのセンサーと連動し、顔を向けた先にある店内の映像が見えるのです。
これによって、バーチャル店員は、ごく自然にお店の中にいる感覚で話し、振る舞うことが出来ます。

◆さらにMR(複合現実)へ
バーチャル店員が見ている世界は、お店の中をデジタルコピーしたVR(仮想現実)です。
そして、客にとっては、猫人間のようなバーチャル店員は、現実世界(実際のお店の中)に追加された仮想の存在で、これはAR(拡張現実)です。
そして、さらに、こんな良いことがあります。
バーチャル店員は、3次元ソフトを操作し、仮想のお店の中で移動出来るのです。
バーチャル店員が客の後ろに回り込むと、バーチャル店員には、客の後ろ姿が見えるのです。そんな時、客の後ろにスクリーンがあれば、バーチャル店員はそこに映っています。
これは、バーチャル店員が見ている「仮想空間=VR」と客が見ている「拡張された現実空間=AR」が融合したことになります。このようなものをMR(複合現実)と言います。

この技術には、広く無限の活用方法があります。
例えば、学校等の授業で、遠隔地にいる教師がバーチャル教師になることが考えられます。
教師が、生徒にとって、感じの良いアバターになっても良いでしょう(年配の教師が青年教師の姿や声のアバターになる等)。
教師は、必要なら、生徒の様子を横や後ろに回り込んで見ることも出来ます。
さらには、教師も生徒もHMDを装着すれば、全くのバーチャル空間で教師と生徒が一緒に授業を行うことが出来ます。そこでは、これまでに考えられなかった授業が可能になるでしょう。
これは、医療用途や、カウンセリング用途にも有望です。
また、エンターテインメント分野では、ライブコンサートを、遠隔地に居る観客にはVRで、会場に居る観客には、MRで提供出来ます。
すると、どうなるでしょうか?
歌手が、初音ミクやVR美空ひばりなどのバーチャル歌手なら、VRで遠隔地でもライブを楽しめますし、会場にいる、HMDを装着した観客は、MR技術により、バーチャル歌手に近づいたり、後ろに回り込むようなことも、既に実際に行われているのです。

以上です。