2020年12月29日火曜日

正しい情報を得るスキル

 ITが解らないと不都合であることが、ますます多くなってきていると感じます。

ITが解るとは、単に、パソコンやスマートフォンを使えるといったことではなく、それらの機器で使うアプリやサービスの安全性や、 社会の中でITがどのように機能しているか等を理解していないと、ITに強い人や組織、そして、ビッグテック(巨大IT企業)に監視・支配されたり、思わぬ不利益を被る可能性があると思います。

特に、日本では、ITに関する法律が甚だ不十分であるため、ITによる損害に対し、誰も助けてくれない可能性があります。

また、以前は、ITをうまく使うことで成功した作家や音楽家等のクリエイターが話題になりましたが、いまや、才能があっても、ITを活用出来なければ、世に出るのは難しいのではないかと思います。


◆IT用語が重要な訳ではない

現在、ITのトレンドであるものと言えば、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、IoT(もののインターネット)、AI(人工知能)等はよく聞きますが、さらに、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)等も、重要度が上がっています。

逆に、ITの用語の中には、重要そうに宣伝されていても、全く重要ではないものもあります。

昔だって、本当は重要でない横文字は沢山ありました。

今で言えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という言葉が、すごく重要だと言う人がいて、そんな人達が、それを知らないことが、いかにも時代遅れで恥ずかしいと思わせたいように話すこともありますが、別に知らなくても良い言葉です。

そもそも、ITの用語で、知らなくて恥ずかしいものなど、実際にはありません。

なぜなら、ITは、本で読んで知っていても、知らないのとほとんど変わらず、自分でやってみて初めて分かることだからです。

スマートスピーカーという言葉を知らなくても何の問題もありませんし、すっかりお馴染みのクラウドという言葉だって、本当に解っている人は多くありません。

重要なことは、用語ではなく、実践です。


◆ITが分からないと理解出来ないこと

ITが分からないと、漠然とした状況すら掴めない事例として、今年のアメリカ大統領選挙がそうだと思います。

内容には立ち入りませんが、トランプ大統領は、大規模な選挙不正が行われ、それよって、本当は自分が圧勝しているはずが、バイデン候補が勝ってしまったという理由により、訴訟を起こしています。

これに対して、CNNやニューヨークタイムズ等のアメリカの主要メディアは一致して、大規模な不正の証拠はないと口を揃え、「裁判所は、トランプ側の主張に正当性がないと言って棄却している」と報道しています。

従って、現時点では、大半の日本人は、「大統領選挙はバイデン候補が勝ち、1月にはバイデン政権が発足する。トランプが何か騒いでいるようだが、彼はもうお払い箱だ」と何の疑いもなく思っているはずです。

しかし、実際には、現時点では、次の大統領が誰かは全く決まっていないのです。


◆中国問題

中国問題についても、ITが分からないと、本当の姿が見えません。

今や、中国は、孔子や老子の時代のイメージとは程遠く、電子システムによる中央集権化を目指すサイバー国家であり、政府レベルでITは驚異的に進んでおり、日本とは比較になりません。

だから、ITを理解出来なくては、そんな中国が、本当は何をやっているか、やろうとしているかは分かりません。

そして、中国の動きは、日本、そして、我々のビジネスや生活、そして、世界に大きく影響を与えますが、ITを理解していないと、それに気付きもしない可能性があります。


◆偉い弁護士もITリテラシーが必要

アメリカ大統領選挙に話を戻しますと、現在も、アメリカ大統領選挙は完全に継続中で、少なくとも、1月6日までは続きます。

現在も、法廷闘争が継続中ですが、この裁判には、ITが深く関わっています。

なぜなら、現在の選挙は完全にITで実施しているからです。

そして、このITを悪用した大規模な不正が起こったと、トランプ大統領側は主張していますが、不正の内容を説明されても、ITが分からないと、ピンと来ないかもしれません。逆に、ITに詳しいと、これをきっかけに重要なことが分かります。

トランプ大統領には、元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ弁護士、元連邦検察官のシドニー・パウエル弁護士、著名な人権弁護士リン・ウッドといった、高名な弁護士達が味方しているのですが(自主的に無報酬でやっている場合もあります)、いかに凄い弁護士でも、ITが分からないと何も出来ないのです。

ところが、これらの、決して若くない超有名なベテラン弁護士達が、皆、十分にITを理解して訴訟を行っていることに驚きます。

65歳のパウエルや68歳のウッドはもちろん、76歳のジュリアーニもちゃんと当を得た話をしています。

ところが、裁判官はITが分からないので、訴訟に対し、「信憑性に欠ける」と棄却している場合もあるように思われます。

裁判官(あるいは裁判所)は、ITに限りませんが、自分で責任が持てないことは、審議せず棄却したがるのだと思います。

アメリカでも、まだ、裁判官は、法律には詳しくても、ITに関しては無知な場合が多いと思われます。

今はそれで通用しているのかもしれませんが、今後、中国に出し抜かれないためにも、そんな古い体質の裁判官では困りますし、終身制と言われるアメリカ連邦最高裁判事も、このままで良いとは思えません。

それで、今は、トランプ陣営は、選挙不正に関する裁判の戦略の方針をITの問題から、憲法問題に変更したようにも思われます(IT関連も証拠としては十分に提示します)。

ITに関し、アメリカよりさらにひどい日本で、IT絡みの裁判が遅々として進まず、裁判所が判決を下すよりは和解を勧める場合が多いのも頷けます。


◆マスコミの信頼度

アメリカ大統領選挙に関する日本のマスコミの報道を見ると、本当に何も知らないことに驚きます。

また、アメリカではマスコミは堂々と嘘をつきますし(それが暴露されても平気なようです)、日本もそうかもしれませんので、自分でネットで情報を集めない限り、真相は分かりませんが、それには、インターネットによる情報収集能力が必要です。

もはや、マスコミの報道は、頭から疑った方が良いかもしれず、少なくとも、鵜呑みにはしないことが大切と思います。

昔は、新聞を熱心に読む人は勉強家で偉いというイメージがありましたが、もうそれは時代遅れなのかもしれません。


◆YouTuberになれる資質

ネットの情報は膨大で、しかも、珠玉混交であり、正しい情報を掴むのは大変です。

そこで、難しい問題に関しては、人々の代わりに情報を集めて整理し、それをYouTube等で分かり易く発信する人が人気があって、お金も稼いでいます。

今はもう、それが仕事として成立しているのです。

かなり前から、小学生から高校生が、将来やりたい職業として、YouTuberを挙げることが多くなっていますが、長く稼ぎ続けるためには、上に述べたようなスキルが必要であることを、大人がちゃんと教えてあげなければなりません。

YouTuberというのは、今や、価値が認められた立派で有望な職業ではあるのですが、そうであるなら、それに見合う高度な能力や努力が必要なはずです。

ただ、マスコミの場合にも言えるのですが、人気のあるYouTuberの情報だって、ある程度、あるいは、かなりの偏向が混じっていると考えた方が良いでしょう。

すると、1から情報を集めるよりは簡単ながら、YouTube等の情報の真偽を判定する能力は、やはり必要です。

以上です。

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2020年11月30日月曜日

情報の真偽をどう判定するか

 AI、認知科学、児童教育の研究者であるスガタ・ミトラ氏は、WIRED誌(2013.01.02)で、インターネットを介した「学び」は既存の教育を消滅させる、そして、未来の子供に教えるべきことは、3つだけであると述べています。

その3つとは、即ち、「読み書きの能力」「必要な情報を得る能力」「そして、その情報の価値を判断する能力」です。

初めの2つは、現代では割合に簡単です。

しかし、最後の「情報の価値を判断する」ことは、とても難しいかもしれません。

それを子供に教えるより先に、大人が習得する必要があります。

そこで、この「情報の価値を判断する」ことについて、今月行われた、アメリカ大統領選挙を題材にお話しようと思います。


◆権威ある報道機関の情報は信頼出来るか

アメリカでも日本でも、まだまだ多くの人が、情報を主にテレビや新聞等といったマスメディアから得ています。

そして、多くの人が、マスメディアの情報は正しい、少なくとも、悪意のある情報はないと信じています。

それは本当でしょうか?

2016年のアメリカ大統領選挙において、アメリカの主要メディアは、ヒラリー・クリントン候補が圧倒的に優勢であると報道しましたが、結果は、トランプ氏の勝利でした。

2020年の今回の選挙でも、やはり、主要メディアは、バイデン候補が大きくリードしていると報じましたが、実際は大接戦で、特に重要州であるフロリダ州やオハイオ州での予測を外しました(主要メディアの予想に反しトランプ氏勝利)。

これは、「予想なのだから外れることもある」という問題ではありません。

むしろ、大方では当たって当然であると共に、マスコミの予想が人々に与える影響が大きいことに対する責任もあります。

カリフォルニア州弁護士で、日本でも人気があるケント・ギルバート氏は、YouTubeで、「アメリカの主要メディアは恥を知らないといけない」と強い口調で述べています。

大統領選挙で世論調査が大きく外れることは、本来異常なのです。


◆メディアのカラー

アメリカには実に多くの情報メディアが存在します。

ニューヨークタイムズ(新聞)やCNN(放送局)等の主要メディアの他にも、数多くのメディアがあり、インターネットのみのWebマガジンにも評価が高いものがあります。

ところが、主要メディアのほとんどが、最近2回の大統領選の予測を大きく外していることを見ても、主要メディアが必ずしも信頼出来るとは限りません。

なぜ、こんな重要な予想を外すのかと言いますと、その理由の1つは、主要メディアも、決して公平・中立的ではなく、政治的・思想的傾向が明らかにあることです。

日本の新聞も偏向報道が指摘されることがありますが、アメリカのほとんどのメディアは、かなり政治的傾向がはっきりしており、各メディアを、保守派(共和党寄り。右派)、リベラル派(民主党寄り。左派)と分類することが多いのですが、現在の主要メディアの多くがリベラル派(民主党寄り)であり、大統領選挙の予測でも、民主党(クリントン氏やバイデン氏)に有利な報道をしています。

これは、決して、嘘の報道をしているというのではなく、民主党寄りである主要メディアの世論調査では、まず、自分達が応援する民主党が有利な予想を立て、その予想に近付くような偏った調査を行うという話があります。


◆正確な世論調査は可能

世論調査会社トラファルガー・グループは、2016年の大統領選挙の結果と、激戦州での勝敗をほぼ正確に予測しました。

トラファルガー・グループはこれまでも長く、優れた予想をしており、今回はトランプ氏の勝利を予測していましたが、選挙自体が接戦だった上、勝敗を決する鍵と言われるフロリダ州とオハイオ州を正しく予測しています。

また、主要メディアの中でも、比較的中立なFOXニュースでは、トランプ氏優勢としながら接戦の予想を伝えていました。

つまり、政治的偏向がなければ、まともな予想が可能な訳です。

日本のマスコミは、アメリカの左派の主要メディアであるCNNやNBC等の報道をそのまま引用しますので、日本でも多くの人が、バイデン氏圧勝と思っていたはずです。


◆マスコミの増長

影響力が大きなマスコミが権力者のように振舞うことは危険ですが、既にそうなっているかもしれません。

今回のアメリカ大統領選挙は、郵便投票が多かったこともあり、集計に非常に時間がかかりました。

その中で、主要メディアは、早い段階で、応援するバイデン候補が当選確実として、一斉に、バイデン氏を「次期大統領」と報じました。日本のマスコミもそれに倣い、朝日新聞は朝刊一面で「アメリカ大統領バイデン」という大見出しを掲げました。

これは、マスコミが事実を作り上げてしまったことになります。

バイデン氏自身も、それに押されてか、主要メディアが勝利濃厚と報じた時点で「政権移行チームを立ち上げた」と発表しました。

(※注 政権移行チーム自体は基本的には党から指名された時点で作っているので、それを始動させたという意味)

ところが、これらに対し、心ある政治学者や弁護士らが苦言を呈しています。

主要メディアがすっかり、バイデン氏を次期大統領扱いする中で、著名な政治学者で弁護士である、ハーバード大学教授アラン・ダーショウィッツ氏は、「バイデン氏の勝利宣言には法的根拠はない」と注意を喚起しました。

つまり、重要なことは、「大統領を決めるのは法律であり、メディアではない」ということです。

主要メディアの報道によって、人々が、大統領はバイデン氏だと思い込むことは危険なことです。

メディアの使命はジャーナリズム(真実の報道)であるはずなのに、まるで自分達が真実、あるいは、法であると人々に思い込ませるからです。


◆偏向報道

バイデン氏の勝利がほぼ確定になると、トランプ大統領は選挙結果に不服を申し立て、選挙に不正の疑いがあるとして訴訟を起こすことを発表しました。

ところが、それに対し、主要メディアは一斉にトランプ氏を批判し、「負けを認めないのは潔くない」「根拠のない主張で政治を混乱させている」と、全主要メディアが同じ内容の報道を行い、日本のテレビや新聞も、アメリカの主要メディアを真似、「往生際が悪い」といったネガティブな報道を行っています。

しかし、元アメリカ大統領、ジョージ.W.ブッシュ氏は、「トランプ氏には再集計の請求権および訴訟追行権が当然ある」とトランプ氏の立場を肯定しました。

ところが、アメリカ主要メディア、および、それに追随する日本のメディアは、ブッシュ氏の発言を報道しません。

さらに、メディアのおかしさが現れます。

トランプ氏は、選挙に不正があったとして、弁護団を組織して訴訟を開始しますが、主要メディアは一致して「トランプは unsubstantiated (根拠のない)、fraud claims.(詐欺の申し立て)をしている」と報じ、日本のメディアもやはり、それに従います。

それを見ながら、何も思わないのはおかしいと思います。

例えば、犯罪の容疑者が、いかに嘘のような主張をしても、それを、「根拠がない」とか「詐欺」とは言えません。

根拠があるかないかを決めるのは、メディアではなく裁判所だからです。

メディアに真実を決める権限はありません。

まして、トランプ氏は正当な申し立てをしているのに、メディアが「詐欺の申し立て」と言うのは異常と思います。

しかも、主要メディアは、トランプ陣営の、ルドルフ・ジュリアーニ、シドニー・パウエル、リンカーン・ウッドら、超一流弁護士達の発言を報道しません。

この訴訟に関するトランプ大統領の記者会見をCNNとFOXニュース以外が、「根拠がないから放送しない」と放送を打ち切るということもありました。

また、バイデン氏および、その息子のハンター・バイデン氏の中国・ウクライナでの汚職疑惑については、それなりの証拠があり、本来、メディアが報じないはずがないのですが、民主党寄りの主要メディアはこれを一切報道しませんでした。


◆中小メディアのジャーナリズム

最初に選挙の不正の大きなスクープを行ったのは、オンラインメディアのフェデラリストだったと思います。

アメリカには、主要メディア以外にも、実に多くメディアがあり、質の高い情報で評価されるものも少なくありません。

フェデラリストは、選挙不正の根拠を客観的に示し、それが真実かどうかはともかく、選挙制度に対する良い問題提起をしたと思います。

アメリカの主要メディアの中では、FOXニュースだけが、トランプ陣営の弁護士達のインタビューを放送しました。

FOXニュースは、共和党寄りであるとか、トランプのお抱え放送局だと揶揄されることがありますが、実際は、そんなことはなく、最近でもトランプ氏がFOXニュースを名指しで批判したこともあります。

つまり、FOXニュースは、単に、大手でありながらリベラル派でないという理由だけで、仲間外れにされているような感じです。

そのためか、日本では、英語が出来る人でも、FOXニュースはあまり見ていないはずです。

11月14日、ワシントンでは、不正選挙に抗議するトランプ支持者達が集まって集会が行われました。

これに対し、主要メディアは、「数千人のトランプの熱狂的支持者達が勝手な主張を掲げて騒動を起こした」程度に報じ、日本のメディアも倣いました。

しかし、集会に集まったのは、少なく見積もっても10万人で、実際は50万人であったと言われ、それは、YouTubeの映像を見ても納得出来ると思います。

アメリカに、エポックタイムズという無料のオンライン情報メディアがあります(日本語版もあります)。

中国系メディアでありながら、実質の中国政府である中国共産党を批判する立場を隠しません。

エポックタイムズの情報はアメリカでも高く評価され、日本の知識人の中にも愛読者が多くいます。

ここでは、主要メディアが一切扱わない、選挙不正情報を報道しています。

(ここで言っておきますが、元々現実に、アメリカでは日本と比べて多くの選挙不正が存在します)

確かに、SNSには、選挙不正に関するフェイク(偽)の情報も多くあるのも事実です。

その中で、どの情報が正しいかを自分で判断出来なければ、世界で、本当に何が起こっているか分からないまま、メディアに情報操作される可能性があります。

アメリカでも中国のような情報統制は確実にあると言う有識者は少なくありませんが、日本ではどうでしょうか?


以上です。


当ブログオーナー、KayのAI書籍。

AIを自分で楽しく作成しながら、AIの本質的な考え方を文系の人でも実践的に理解出来ることを目的として書きました。
「モンティ・ホール問題」、「囚人のジレンマ」等をAIは、人間が教えなくても解けることも簡明に示しました。これはとても興味深いと思います。

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2020年10月29日木曜日

バーチャル・ヒューマン

 先日、あるワイドショー番組で、海外でも活躍する日本人モデル、imma(いま)が紹介され、海外のトップモデルに優るとも劣らない美貌とスタイルが称賛されましたが、情報通であると思われる番組出演者達ですら、ほとんどが知らなかったのは、immaが人間ではなく、3次元CGであるバーチャル・ヒューマン(仮想人間)だということです。

今回のテーマは、今後、モデルだけでなく、あらゆる分野に進出するバーチャル・ヒューマンについてです。


◆AIで進化するバーチャル・ヒューマン

バーチャル・ヒューマン・モデル、immaは海外のファッションショーにも登場しています。

今は、海外のファッションショーでは、舞台に3次元映像を投影することが行われています。

技術の進歩により、3次元映像投影設備が小型化され、設定も簡単になってきています。

それで、immaも人間のモデルのように、最新ファッションに身を包み、ステージを歩きます。

つまり、世界のファッション業界では、バーチャル・ヒューマン・モデルが進出する準備が整っているということです。

バーチャル・ヒューマン・モデルは、完璧な容姿と共に、AIの活用により、自然で洗練された動作や表情が可能で、今や、人間の一流モデルのレベルと思いますが、AIがさらに進歩すれば、人間をはるかに超えると考えられます。


◆不気味の谷

ところで、これまで、immaのようなバーチャル・ヒューマン・モデルが登場しなかった理由が面白いので取り上げます。

人間以外の動物に関しましては、既に、映像だけのバーチャル・アニマルを超え、実体のあるロボットが活用されています。

映画では、サメ、トラといった危険な動物が必要な場合、ロボットが使われることが多くなりましたが、ロボット動物が使われている映画を見ても、観客は、それがロボットであることに気付きません。そのくらいリアルです。

保険会社のアフラックのCMに登場するアヒルを見て、「随分よく仕込まれたアヒルだ」と思ったかもしれませんが、あれもロボットアヒルです。

このようにロボットを使って撮影する技法を「アニマトロにクス」と言います。

では、人間のアニマトロにクス用ロボットはないのかと言いますと、既に、かなりのものが作られてはいます。

しかし、今のところ、もし使われても、ゾンビ役など、極めて特殊な場合だけです。

その理由は「不気味だから」です。

人間の感覚には「不気味の谷」と呼ばれる境界があり、(人間に関しては)中途半端にリアルだと、不気味に感じてしまうからです。

例えば、蝋人形は、かなりリアルに作っても、どこか本物と異なるので不気味なのです。


いまはまだ、ロボット人間は、完璧にリアルではなく、「かなりリアル」という段階なので、不気味さがあるのです。

しかし、CGで作られるバーチャル・ヒューマンは、完全な人間のレベルに達しています。

immaも完璧にリアルであるからこそ、不気味さがなく、自然に美しいと感じるのです。

バーチャル・アイドル・シンガーなら、初音ミクやIA(イア)、あるいは、中国の洛天依(ルォ・テンイ)らが国際的に人気がありますが、これらは、本物の人間と見間違えようがないアニメの顔をしています。だから、可愛いとは思っても、不気味とは思わないのです(ただし、年齢が高い人は不気味に感じる傾向があるという報告もあります)。

実際、バーチャル・アイドル・シンガーの製作会社では、あまり本物の人間に似せ過ぎて「不気味の谷」に引っかからないよう配慮しているという話もあります。

しかし、今後は、人間と見分けがつかないバーチャル・アイドル・シンガーも登場することが予想されます。

このように、immaのような、完璧なバーチャル・ヒューマンを作る技術がもっと普及していき、「不気味の谷」を超えることが容易になれば、バーチャル・ヒューマンは、様々な分野に進出すると思われます。

例えば、バーチャル・ヒューマンの教師やカウンセラーが注目されています。

見かけは人間と同じ(しかも美男・美女)でありながら、時に醜い心を持たない存在に教わる、あるいは、相談するという安心感が大きなメリットになる可能性があると考えられています。

ルドルフ・シュタイナーが「理想的な教師は空気のようなもの」と言ったことが本当の意味で実現されるのかもしれません。



◆バーチャル・ヒューマンの悪用

いずれは、誰でもimmaのレベルのバーチャル・ヒューマンを作れるようになると考えられます。

いまや、かなり高度なCG技術が、普通のPCで、誰でも安価に使えるようになってきました。

けれども、今は、ほとんどの人は、immaほどのレベルのCG技術を使ったり、immaを作るために必要なAIを作ることが出来ないので、ごく一部の者しか高級なバーチャル・ヒューマンを持てません。

しかし、immaレベルのバーチャル・ヒューマンを作るために必要な技術が、AIも含めて一般的になれば、写真1枚から、容易にバーチャル・ヒューマンを作ることが出来るようになります。

そうなれば、例えば、死者の写真から、その死者の生前の姿を簡単に再現することも可能です。

現在でも、技術力がある者による、著名人とそっくりなバーチャル・ヒューマン映像を作るといういたずらがSNSで行われ、話題・・・というよりは事件になることもあります。


◆バーチャル・シンガーが人間を超える

バーチャル・ヒューマンが既に進出している分野に歌手があります。

ヤマハが開発した歌声合成技術「VOCALOID(ボーカロイド)」を利用した、歌声合成ソフトがいろいろな会社で開発されています。

ただ、これらのソフトの基本的な操作自体は簡単なのですが、耳が肥えた人の鑑賞に堪えるほどの素晴らしい歌声で歌わせるには、かなり熟練と作業が必要です。

歌声合成ソフトの声を人間の歌手に近付けるために、ソフト開発者側、ユーザー側双方の多大な努力が行われている訳です。

しかし、これも、AIを使うことで状況が変わり、簡単に行えるようになります。

例えば、テクノピーチ社では、人間の歌手のわずか2時間の歌をAIに学習させれば、あらゆる歌を、その歌手そっくりに歌わせることが出来ます。

マイケル・ジャクソンの歌のCDを何枚かAIに聞かせれば、バーチャル・マイケル・ジャクソンが出来上がり、生前、彼が歌ったことのない歌でも、彼そっくりに歌えるのです。


◆バーチャル・ダンサー

また、ダンスに関しても、バーチャル・ヒューマンが躍る映像をAIが作成出来るようになるのも時間の問題です。

現在でも、人間のダンサーの身体にデバイスを付けて動きをトレースすることで、バーチャル・ヒューマンが踊る映像を作ることは可能ですが、人間のダンサーが躍る姿をカメラで撮影した映像だけで、AIの力でバーチャル・ダンサーを作る研究も進歩してきています。

やがては、天女のような素晴らしい、バーチャル・ヒューマン・ダンサーも登場するでしょう。

そうなった時、人間のダンサーが必要でないとまでは言えなくても、バーチャル・ダンサーで済んでしまうこと、あるいは、バーチャル・ダンサーでしか出来ないことも多くなると思われます。


以上です。


当ブログオーナー、KayのAI書籍。

AIもそうなのですが、本を一般の人に解り易く書くと、教科書的な正確さを欠くことが多く、そこに難癖を付けたり、見下したリする「寂しい」専門家が沢山います。
しかし、教科書的な書き方をすると、普通の人が絶対に使わない文言や言い回しになって、さっぱり解らなくなり、結局、人々に受け入れらてもらえず、その分野の発展を遅らせてしまうのです。
この本は、「すごく簡単」とは言いませんが、普通の人のために、普通の言葉を使って書きました。

本書のほぼ全ての実習が出来るデータを作ることが出来るExcelマクロを出版社サイトから無料でダウンロード出来ます。

2020年9月26日土曜日

人と音楽を結びつける技術

 以下は、今年(2020年)9月12日(土)に、YouTubeとニコニコ動画でライブ配信されました、「OngaACCELシンポジウム2020」を、筆者なりに理解した非公式な内容です。

現在は、以下のURLでアーカイブ配信されています。

◆OngaACCELシンポジウム2020

◆OngaACCELプロジェクト 公式HP

このシンポジウムの視聴者は、音楽と共に、音楽に関するテクノロジーやAIに、最低限以上の知識・理解がある方を対象としていると思われます。

そこで、そういったことに、あまり馴染みがない人にも解るよう、易しく簡潔にお話しようと考えて書きました。


【本文】

イギリスの作家コリン・ウィルソン(1931-2013)は、少年時代、アインシュタインのような科学者になることを夢見ていましたが、家が貧しくて(日本でいう)高校に進学出来ずに、工場労働者をしながら図書館で勉強を続け、23歳の時に書いた心理学的評論『アウトサイダー』で、一夜にして世界的作家となりました。

そのウィルソンは、生涯、大量の書籍を買い続け、置く場所がなくなる度に庭に小屋を立てたらしいですが、ある時点で2万冊と言われた蔵書の大半を実際に読んでいたといいます。

ところで、ウィルソンは、本だけでなく、音楽も好きで、彼の時代ですから、主にアナログレコードを、やはり大量に購入しました。

そしてある時、買ったレコードを全部聴くには、どのくらいの時間がかかるか計算してみたところ、一生、絶え間なく聴いても、聴ききれないことが判ったといいます。


◆名曲のほとんどを一生聴かない

普通の人は、歴史的名曲であっても、その大半を一生聴かずに終わります。

モーツァルトやベートーヴェンの主要曲ですら、クラシック音楽愛好家でない限り、そのほとんどを一度も聴いたことはないでしょう。

クラシックに限らず、もしかしたら、聴きさえすれば感動するような名曲でも、一生出会わないことがほとんどです。

ところで、音楽制作というものは、決して専門家だけが出来ることではなく、特に、近年はパソコンを使った電子音楽創作技術の発達により、音楽は、実は誰でも作ることが出来ることが解ってきました。

昔ですら、名曲の誉れ高いフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』は、プロではない趣味の音楽家が作ったものです。

ですから、毎日、素晴らしい曲が、世界中で沢山生まれ続けていると考えた方が自然と思います。

そして、せっかく作られた素晴らしい曲が、誰にも聴かれないまま埋もれたり、また、聴いていれば歓喜するような曲に出会えないというのは残念なことと思います。


◆AIによる音楽との出会い

その中で、AI等のテクノロジーを使い、人と音楽を結びつける研究が行われています。

その人に合った音楽がスムーズに見つかるよう支援することが1つの目的です。

経済産業省所管の公的研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(略称:産総研)の人間情報インタラクション 研究部門、首席研究員、兼、メディアコンテンツ生態系プロジェクトユニット代表である後藤真孝氏(工学博士)が中心となって行っている、そういった研究成果が、今年9月12日、「OngaACCELシンポジウム2020」として、3時間に渡って開催され、YouTubeでライブ配信されました。

(「OngaACCELシンポジウム2020」プロジェクトマネージャーは、クリプトン・フューチャー・メディア社長、伊藤博之氏)

その内容の一部を、以下でお話しようと思います。

以下にご紹介するサービスでは、YouTube、ニコニコ動画などの、膨大な曲を利用出来ます。 


◆Lyric Jumper 

このサービスは、まず、ある歌手が、どんな傾向の歌を歌っているのかを歌詞で解析します。

例えば、松田聖子と指定すれば、AIは、第一に「大人の恋愛」にカテゴライズ出来る曲が多いと判定し、では、楽曲のどの部分が、大人の恋愛と言えるかを示します。

さらに、同じ傾向を持つ歌手を選別し、サービスの利用者は、次に聴く歌手を選ぶ際の参考にすることが出来ます。


◆Songle

AIの力を借りて、その楽曲がそのような曲であるかを素早く把握することが出来るサービスです。

例えば、曲のサビ(聴かせどころ)をAIが抽出し、サビから聴くことで、音楽の傾向や雰囲気を感じることが出来ます。

もし、AIの判断が不正確だと考えられる場合は、人間が修正することも出来、AIと人間の集合知の両方を生かすことが出来ます。


◆Songrium

曲と曲との関係性から、自分に適した音楽を発見することを支援するという高度なサービスです。

今日では、1つの音楽コンテンツから、新しい音楽コンテンツが派生することがよくあります。

例えば、ある曲を気に入った人が、その曲を自分で歌い、演奏し、動画を作ったりして、新しいコンテンツとして動画サイトに投稿するのです。

(著作権の関係で問題が起こる場合もありますが)

こういった、オリジナル作品と派生作品の関係を解析することで、これまでは分からなかった、その音楽の傾向性を見つけ出せることが研究により分かってており、ここからも、お薦めの音楽を選択する重要なヒントが得られます。

これは、インターネットの発達と、一般の人がコンテンツを創造するCGM文化の発展がなければ、起こらなかったことです。

ニコニコ動画の21万曲のオリジナル曲に対する82万以上の派生作品を解析に利用しています。


◆Songle sync(同期技術)

これは、上記のものとは違い、音楽を解析する技術を応用し、人々を楽しませるサービスです。

例えば、コンサートにおいて、音楽に合わせてライブ会場の照明(色や照度等)を変化させたり、観客のスマートフォンにCGを表示させることで、ライブをより楽しいものに出来ます。

あるいは、音楽と同期してロボットを動かすことも出来ます。

ポイントは、そういった演出はソフトウェアが作るので人間が作る必要がないことと、音楽と完全同期することです。

例えば、1つの場所で、曲に合わせて花火を打ち上げ、遠くの人は、スマートフォンでリアルタイム配信された音楽を聴きながら、曲と同期した花火を楽しむことが出来ます。

同じことを普通に野外で行えば、まず、光速と音速の差により、花火と音楽が同期しないのはもちろん、通信遅延も起こりますが、これが完全同期しますので、広い場所で多くの人が一体感を得ることが出来るのです。これは素晴らしい技術です。


他にも、3時間に渡って、様々な研究成果が発表されました。

例えば、自動採譜という分野では、ピアノ演奏から楽譜をAIが作成するのですが、極めて高度な演奏であってもかなり正確に楽譜を作れるところまできています。

シンポジウムでは、具体的なAI技術をどのように使って実現しているのかといった専門的な内容も説明されていました。

また、 このシンポジウムの名称であるOngaACCELのOngaは「音画」であり、ミュージックだけでなく、ビジュアルも含みます。

例えば、これまでも、踊っている人の身体にモーションキャプチャーを行う機器を付けて、動きのデータをデジタル的に取り込むことは行われていましたが、CGやAIの発達により、カメラで捉えた映像だけからそういったデータを取得したり、あるいは、静止画から、動画データを作るといったことも行われているようです。


音楽を楽しみ、そして、新しい形の音楽を発展させていくことに、テクノロジーが大きく貢献しているのです。

 

以上です。 


当ブログオーナー、KayのAI書籍。

自動車はメカが解らなくても運転する専門で良いのですし、電子レンジはマイクロ波が解らなくても料理専門で良いことはお解りと思います。
AIも、理論やプログラミングが解らなくても、「推測させる」専門で十分です
誰でも実用的AIを作ることが出来るように書きました。
ただし、理論、数学、プログラミング、AI思想も、入門者にとって興味深いことは書いたつもりです。

本書のほぼ全ての実習が出来るデータを作ることが出来るExcelマクロを出版社サイトから無料でダウンロード出来ます。

2020年8月26日水曜日

AIはどうやって推測するのか

 現在はまだ誤解されていることが多いのですが、AIは思考するマシンではなく、推測するマシンです。

そこで、AIが推測するものであることがよく解るよう、野球の試合において、AIにバッターを攻略させるお話をしようと思います。

サッカーのゴールキーパーの攻略も同じように出来るはずです。


◆バッター攻略に必要なこと

一流のバッターと対戦する時には、ピッチャーは、単に速い球を投げるとか、切れ味の鋭いカーブを投げるだけでなく、頭を使う必要があるはずです。

頭で戦いを有利にするには、バッターの情報が必要です。

その情報によって、バッターにどんな球を投げれば、バッターがどう反応し、結果がどうなるかを推測する訳です。

それは、ピッチャーだけでなく、捕手や監督、あるいは、コーチの仕事であると思います。

そして、推測するマシンであるAIは、人間以上に、バッターの反応を推測出来る可能性があります。


バッターを攻略するためには、そのバッターの一般的な特性が分かっているだけでは足りず、バッターの微妙な癖を知る必要があります。

では、バッターの癖を知るにはどうすれば良いかと言いますと、当たり前ですが、バッティングを見て分析します。

とはいえ、10試合や20試合、そのバッターのバッティングを見ても、なかなか癖を正確に見抜くことは難しいと思います。

確かに、バッターの癖とはどのようなものかをよく知っている経験豊かな捕手や監督であれば、見る数は少なくて済むでしょうが、それでも、素人が思うよりは多く見る必要があるはずです。

100試合分や200試合分以上の情報が必要かもしれず、それでも足りないかもしれません。

しかも、人間は忘れますので、それを補うだけの数を見る必要があります。

だから、バッターの癖による攻略というのは、実際には難しいと思います。

そこでAIの出番です。


【補足】バッティングデータの収集に関し、いずれ、AIはバッティングの映像ビデオを見れば十分になるでしょうし、それは現在でも不可能ではありませんが、一応、今は、記録係の人がビデオを見て、「ピッチャーの球=120km/hのフォーク。バッターの動作=スイング。結果=三振」のように、文字で入力するとします。


◆AIの人間に対する強みとは

AIには、当然ですが、コンピューターの強みが全部あります。

人間に対するコンピューターのよく知られている強みが、「速い」「忘れない」です。

AIは、あるバッターのバッティングを200試合分見たら、その200試合のバッティングを全部、正確に覚えています。

そして、もう1つのメリットの「速い」が重要です。

人間なら、あるバッターの200試合分のバッティングのデータを見ようと思ったら、かなりの時間(数日、あるいは、数週間)かかるかもしれません。

詳細に分析しながら見たら、それこそ、どれだけ時間がかかるか分かりません。

しかも、人間は、見たもののうち、かなり多くを忘れてしまいます。

しかし、コンピューターなら、その10倍の2000試合分でも、おそらく数秒で、詳しく分析しながら見て、1つも忘れません。


◆AIは人間の脳を真似ている

ところで、人間はバッティングをどう分析するかと言いますと、当然ながら、頭を使うのですが、正確には、脳を使います。

脳がどんな仕組みで働くかは、以前はほとんど解らなかったのですが、今日では脳の研究が進み、いくらか解るようになってきました。

そして、脳科学者と数学者が協力して、脳の働きを真似した論理的なモデルを作りました。その代表的なものがニューラルネットワークと言われているものです。

さらに、コンピューターの発達により、ニューラルネットワークをコンピューターでシミュレート(模倣)出来るようになりました。

この、ニューラルネットワークをコンピューターでシミュレートする「ニューラルネットワークシステム」が今日のAIの土台になっています。

つまり、今日のAIは、人間の脳を参考にして作られているのです。

ただし、実際は、脳の仕組みの詳細は、まだまだほとんど解っていません。

思考やひらめき・直観、フィーリングなどといった高度な機能はもちろん、実際にはほとんどの脳の機能がまだ研究段階で、今はなんとか、基礎的な部分が分かっているだけです。

ですから、ニューラルネットワークの細かい部分は、あくまで人間が(ただし、飛び切り頭の良い人が)考えたものです。それは、日々、進歩しています。

ニューラルネットワークを理解したり、作るためには高度な数学が必要です。

日本の高度なAI開発会社では、現役の東大生等、頭の良い人を雇っているという話があります。

また、それで作ったニューラルネットワークをコンピュータープログラムにするには、高度なプログラミング能力が必要です。

しかし、作成済みのニューラルネットワーク・システムを利用してAIを作るだけなら、数学や高度なプログラミング能力は不要で、ある程度のプログラミングが出来ればAIを作れます。

さらに、今は、プログラミングも不要なニューラルネットワーク型AI構築アプリが次々に登場し、プログラミングが出来なくても、言ってしまえば誰でもAIを作ることが出来るのです。


◆AIと人間の役割分担

AIがバッターの癖を見抜くというのは、もっと正確に言えば、AIは、バッターの癖を推測する訳です。

何度も繰り返しますが、AIに出来ることは推測だけなのです。

ただ、その推測はかなり正確に行えます。

AIは、推測したバッターの癖(沢山あるはずです)が、それぞれ、どの程度確からしいのかを、確率で(例えば80%)示します。

それで解ったバッターの癖から、どう攻略するかは、あくまで人間が考えることです。


AIは、あるバッターのバッティングを見れば見るほど。つまり、データを得れば得るほど、癖が正確に分かります。

しかも、たとえ1万試合分のバッティングでも、普通のパソコンで数分~数十分、高級機なら数秒以下で見ることが出来ます。

AIは、バッティングデータを取り入れると、ニューラルネットワークシステムを使い、バッティングを分析し、そのバッターの癖を推測します。

その後、試合の中で、AIに、こんな質問をしたとします。

「ランナーは2塁、カウントは2ストライク1ボールで、中程度の速球派の右ピッチャーが内角低めのストライクゾーンに速球を投げると、結果はどうなるか」

すると、

「センターにゴロで返す確率53パーセント。ヒットになる確率28パーセント」

と答えたりします。

AIにいろんな質問をし、最も望ましい結果が期待出来る球を投げれば良いのです。

SFでは、昔からこのような場面があったような気がします。

それがいよいよ実現し、そして、それを誰でも行えるのです。


以上です。


当ブログオーナー、KayのAI書籍。

数学、プログラミング、高度なAI理論なしで、実用AIを自分で作ることが出来るようになることを目的とした本です。
面白いテーマにAIで挑む楽しい実習を通して、AI作成に必要なセンスを身に付けます。
本書のほぼ全ての実習が出来るデータを作ることが出来るExcelマクロを出版社サイトから無料でダウンロード出来ます。

2020年7月26日日曜日

AIは人類が求め続けてきた待望の道具

チンパンジーが道具を使うという話があります。
とは言っても、それは、石で叩いて何かを砕いたり、棒で突っつくといった程度のものです。
特に賢いチンパンジーは、木の棒の余分な枝を除いたり、石を加工したという話もありますが、陸上動物では人間に次ぐ発達した脳を持つチンパンジーでもそこまでです。

◆人間はなぜ道具を作ったのか
人類の最も古い道具は、映画『2001年宇宙の旅』では、こん棒でした。もちろん、正確なことではないでしょうが、だいたい、そんなものだったと思われます。
ところで、道具とは何かと言いますと、全て、「自己の能力を拡張するもの」であると言えると思います。
上の『2001年宇宙の旅』では、こん棒で自己の攻撃力を拡張した旧人類は、周囲の旧人類達を暴力で圧倒しました。
また、人間の歯や爪は、あまり強力ではなく、硬いものを切れませんので、人間は石器を作り、もっと固いものが切れるよう銅器を作り、さらに、鉄器へと進歩させました。
そして、人間は、あまり速く、そして、長時間走れないので、馬を走る道具とし、さらに、もっと楽に乗れるよう馬車を作り、やがて、鉄道列車や自動車を作ります。
飛行機に関しても、純粋に飛びたいというよりは、速くスムーズに移動したいと思って発明したのではないかと思います。
このように、人間は、人間の裸の能力に不満を感じたので、その能力を高めるために道具を作ったのだと思います。

◆深刻に欲しい能力
ところで、かなり昔から、人間が持ってはいるが、その能力が低いことを賢い人達は認識していた能力があります。
それは、「予測力」です。
トーマス・フリードマンは、ただのジャーナリストなのですが、彼は、度々、ホワイトハウスで大統領と話し合っていました。
その他にも、彼は、超大企業のCEOや億万長者の大投資家、アラブの石油王達とも、度々、誘われて会談をしました。
なぜ、フリードマンがそれほどの大物達に「モテる」のかと言いますと、彼が高い予測能力を持っていたからです。
フリードマンは、政治、国際問題、戦争、科学など、広い範囲に渡り、鋭い予測力を発揮しました。

ニューヨークタイムズ等、世界中のメディアでよく引用された、こんなジョークがあります。
「平均的な専門家の予測の正確さは、チンパンジーが投げるダーツとだいたい同じ」
これは、誰かが口から出まかせで言ったのではなく、ペンシルべニア大学教授、フィリップ・テトロックが、1984年から2004年まで20年の間、大変な労苦をかけて詳細に研究した結果、出した結論です。
つまり、専門家の予測なんて、「チンパンジーが投げるダーツ」程度のいい加減なものなので、フリードマンのような「それなりに本当に当たる」予測能力を持った人は非常に貴重なのですが、そんな人は滅多にいないようなのです。
昔から、歴史に名を残すような大政治家や大将軍、あるいは、大事業家達が、評判の高い占い師を、秘密裏に高給で雇っているというのは、風説もあるでしょうが、実際に確認されている例も多くあるようです(そんな事実を調査した研究者の著作もあります)。
それほど、責任重き立場の人達は、正確な予測力を欲しているのだということです。

◆予測力を得るコストが下がった
それなら、正しい推測をする道具を作れば良いのですが、そんなものをどうやったら作れるのか、最近まで皆目見当が付きませんでした。
1960年代から行われている、コンピューター・シミュレーションも、予測を目的としています。
しかし、簡単なことならともかく、コンピューター・シミュレーションで複雑な予測をしようとしますと、膨大な労力や予算がかかりますが、実際には、それほど正確な予測は得られません。
ところが、近年、ビッグデータという、正確な予測が期待出来る、待望の手法が出来ました。
実際、ビッグデータは驚異的に正確な予測をすることがあります。
しかし、これを使えるのは、膨大なデータと高度な設備、そして、優れたデータサイエンティストを擁する一部の企業だけです。
ところが、1950年代から研究が進められてきたAIの分野で、2006年頃に「ディープラーニング」という手法が発明され、これがAIに取り入れられることで状況が一変します。
最初は、ディープラーニング型AIを使うことは難しいことでしたが、これを簡単に使う方法が急速に発達しました。
そして今や、ディープラーニング型AIは、誰でも使え、これによって高度な予測が出来るようになりました。
実際、ディープラーニング型AIは、未来の技術ではなく、もう「枯れている技術」とまで言う専門家すらおり、目端の利く企業は、規模の大きさに関係なく、既に導入し、活用しています。
これを使うか使わないかで、持てる予測力は比較になりませんが、予測力がどれほど重要なものであるかは上に述べた通りです。

以上です。

当ブログオーナー、KayのAI書籍。
AIを自分で作れるようになることは、今後の世界でとても重要になると思います。
しかし、我々は、そのために、無限の時間を割く訳にはいきません。
自動車を運転出来れば便利ですが、運転を習得するために膨大な時間や費用をかける訳にいかないのと同じです。
実用的なAIを作るために、数学もプログラミングも難しいAI理論も不要です。
そして、技術オタク、数学オタク、プログラミングマニアでなくても分かる普通のテーマを普通の言葉で説明することでAIツールの使い方が分かるようにしました。
応用編においても、類書に見られる退屈なものではなく、興味深く感じるテーマを選びました。
ただし、それが成功しているかどうかを決めるのは読者ですが。

2020年6月27日土曜日

PCを使おう

スマートフォンの普及により、PC(パソコン)が使用される機会が減っています。
以前はPCでやっていたことは全てスマートフォンでやれるので、PCを全く使わなくなったという人もいるようです。
PCを使ったことがないという大学生すら珍しくはなく、企業で、新入社員にPCの使い方の研修を行うという、以前はあり得なかったことも起きています。
また、人気があるインフルエンサー(インターネット上で影響力のある人)が、PC不要論(スマートフォンで十分)を唱えていますが、それがますます我が国のIT力を落とすことになりかねません。

◆PCの必要性
PCを使わなくても、スマートフォンで十分な場合はもちろんあります。
しかし、PCでやることをスマートフォンやタブレットで全て代替は出来ません。
特に、ビジネスや、クリエイティブで高度な用途では、そうです。
その理由は、まず、画面の大きさや、文字入力の効率の問題です。
スマートフォンのタッチパネルで十分に速く文字入力出来るという人もいますが、それは、文章が短かかったり、単純な文章である場合に限られます。
また、PCであれば、ブラウザで調べものを行いながら書くことも容易ですが、スマートフォンでは効率が悪いはずです。

確かに、特別な能力を使う仕事で忙しく、PCを使う仕事を他の人にやらせている人はいます。しかし、そんな人はあまり多くはないはずです。
スマートフォンで文章を音声入力をしている人がいて、それは確かに、膨大な文章を作成する必要がある人の場合は、必須の方法となっていることもあります。
ただし、その場合も、必ず後で、音声入力した文章をPCに取り込んで加筆修正を行います。
音楽や美術関連のクリエイターには、PCだけで作業する人も多くなりましたが、それをスマートフォンでやるのは、今後も無理でしょう。
アイデアを素早くメモしたり、ラフな構想を書く場合にはPCでは不便ですが、それには、スマートフォンやタブレットではなく、紙とペンや鉛筆を使った方がずっと効率的な場合が多いでしょう。
実際、優れたビジネスマンやクリエイターは、スマートフォンやパソコンを使い分けるだけでなく、紙のノートも活用していることがよくあります。

◆やはりWindows PC
クリエイティブな作業をし、ITの進歩に適応していくには、キーボードのついたパソコンが必要です。
そして、そのパソコンの種類(OSの種類)は、今のところ、Windowsの優位性は揺らぎません。Chrome OSは、将来はともかく、今はまだまだですし、Linux系のOSがPCの標準になることはなく、iOSやAndroid等のスマートフォン用OSは尚更です。
アップルのマッキントッシュPC(OSはMSC-OS)は、昔から、音楽やグラフィックデザイン等の用途を中心に多くのユーザーがいますが、少なくとも、MAC-OSが全体の主流になることはないでしょう。
企業によっては、アップル・マニアによって、必要以上にマッキントッシュPCを導入していることもありますが、それは会社に不利益を与えている場合も多いのではないかと思いますので、チェックした方が良いでしょう。

将来に渡ってITを味方にするためには、現時点では、Windowsパソコンを持っている必要がありますし、少なくとも普通の人にとっては有利と言えるでしょう。
デスクトップPCを使う必要性は低くなってきましたが、20インチを超える画面や使い易いキーボードによる生産性は高く、用途によってはデスクトップPCが必須です。
確かに、スマートフォンがある今、PCを持ち運ぶ必要は少ないはずですので、普段使うPCは、15インチ以上のフルHD(1920×1080ピクセル)画面のノートPCが最良と思われます。

◆PCを使おう
ITをクリエイティブに活用し、ますます速くなるテクノロジーの進歩に適応するためにはPCが必要で、子供の時からキーボードでのタイピングに慣れておくべきと思います。
プログラミングにおいては全くそうだと言えますが、今後活用が必須となるAIは、多量のデータを扱いますので、それには、PCの大きな画面が必要です。
その他のことを考えても、PCを上手く使いこなせることが、大きなアドバンテージになると思います。
もちろん、スマートフォンも大いに進歩し、新しい画期的な用途も生まれるはずですが、それでPCが不要になるどころか、ますますPCの必要性が高まると考えるべきと思います。

以上です。

当ブログオーナー、KayのAI書籍。
AIを作るために大切なことは、数学やプログラミングやAI理論ではなく、AIを作るための考え方です。
問題を推測問題に変換すること、そして、AIに学習させるデータには、どんなものが必要か考えることが大切です。
例えば、「占いAIを作ろう」なんて人がいますし、実際、「占いAI」なんて名前のもあるかもしれません。
しかし、占いAIを作るための膨大で細かく整理されたデータのことを考えたら、私なら、作る気になれません。
そんなことが分かることが大切なのです。そして、楽しい実習を通じて、それが分かるように書いたつもりです。
個人的には、最も面白いのは「モンティ・ホール問題」の項と思います。

2020年5月24日日曜日

新型コロナウイルスに対するAI活用法

新型コロナウイルス対策にAIを役立てる簡単な方法を書きます。
厚労省等、政府機関には新型コロナウイルスに関連した多くのデータがありますので、それを使えば、AIでかなり有益なことが出来るはずです。
ただ、一般に公開されているデータからでも、そこそこ、役に立つことが出来るはずですので、とりあえず、それをお話しましょう。

◆可能なこと
最も単純なものとしては、未来のある時点(例えば、2021年8月10日)での、感染者の数、死亡者数を推測出来ます。
また、感染者、あるいは、死亡者が、ある人数(例えば、感染者100人)まで減少するのはいつになるのかを推測することも出来ます。
推測の精度の高さは、データ量や、分析手法等によって異なってきます。

◆単純なモデル
例えば、日本全体の次のようなデータを集めるとします。
・日付
・曜日
・感染者数
・死亡者数
これらのデータは簡単に入手出来ます(データの信憑性等はここでは問いません)。
これらのデータを集め、AIに学習させます。
現在では、ほとんどの場合、AIにデータを学習させることを機械学習と言い、高度な機械学習のことをディープラーニングというのだと言って良いと思います。厳密ではありませんが、だいたいそれで良いと思います。
AIは、これらのデータを学習しながら、感染者数、死亡者数を推測するための法則を作っていきます。
この法則が、どれくらい正しいと期待出来るかもAIは提示出来ます。
ここで重要なことは、推測するための法則の作成に人間が関わらないことです。
そのため、AIが作った法則は、人間には解らないブラックボックスです。
だから、たとえ、AIが優れた推測をしても、なぜそう推測出来るのか、基本的に、人間には解らないのです。
※これが、人間が法則を作るビッグデータ分析との大きな違いの1つです。

◆予測の精度を上げる
上の単純なデータモデルでも、データ量が十分に多く、データの期間が十分長ければ、ある程度、正しい推測が出来る可能性があります。
そして、さらに、予測に影響を与えるデータ項目を増やすほど、予測の精度を上げられる可能性があります。
例えば、
・気温
・降水量
・PCR検査数
等です。
また、一見、関係がないと思われるデータでも、実際は影響があるかもしれません。
例えば、
・大手通販売上高
・高速道路混雑度
・新幹線乗車率
・航空機乗車率
・交通事故発生数
・NHKの視聴率
等で、他にも無限に考えられます。
項目は、多ければ多いほど正確な法則が作られる可能性がありますが、項目を増やすほど、AIが法則を作るための学習時間は大きくなり、場合によっては、大き過ぎて処理不能になります。
どんなデータが有効かは、現実的には試行錯誤することも多くなります。
つまり、「やってみないと解らない」ことも多いのです。

◆予測
では、次のデータで、AIに学習を行わせるとします。
目的は、未来の感染者数、死亡者数の予測です。

・日付
・曜日
・平均気温
・降水量
・1日のPCR検査数
・感染者数(予測用)
・死亡者数(予測用)

その後、推測したい未来の日付と曜日を指定します。
そして、「平均気温」「降水量」「1日のPCR検査数」の数値の様々な組み合わせを設定し、そのそれぞれの組み合わせごとに、AIに感染者数と死亡者数を予測させます。
例えば、日付、曜日、平均気温、降水量、1日のPCR検査数の組み合わせを、
(2021/3/06、土曜、10度、0ミリ、3600件)
(2021/3/06、土曜、12度、0 ミリ 、3600 件 )
(2021/3/06土曜、12度、0 ミリ 、4000 件 )
(2021/3/06、土曜、12度、10 ミリ 、3600 件 )
(2021/3/06、土曜、12度、10 ミリ 、4000 件 )
といった感じで、このようなパターンを必要なだけ(数百、数千になるかもしれません)作ります。
その、それぞれのパターンについて、AIは、感染者数と死亡者数を推測します。
これにより、特定の日に、どのような条件なら、どのくらいの感染者数と死亡者数になるかをAIは予測します。
例えば、「2021年3月6日土曜日で、平均気温が16度、降水量が100ミリ、1日のPCR検査数が3000件の場合の、感染者数と死亡者数はどうか?」といった感じです。
このAIの活用法として、例えば、気温や降水量が同じとし、PCR検査数を、様々な数に設定してAIに推測させると、PCR検査数の違いによる感染者数を推測させることが出来ます。
これによって、PCR検査は必要か必要でないか、あるいは、却って害がある可能性がある等といったことも解るわけです。
高度なAIの活用法も、基本的には、この応用と考えて良いと思います。

以上です。

当ブログオーナーKayのAI書籍。
Amazon Kindle版発売中。紙の本は、5月30日発売です。

Excelが普通に使えるスキルがあれば、数学、プログラミング、AI理論なしで、実用的なAIを自分で作れるようになることを目指しました。
非常に易しい課題から始め、「モンティ・ホール問題」等の面白い問題を、AIを使って自分で解けるよう、必要なデータを作れる、Excelマクロ(VBAプログラム)で作ったシミュレーションプログラムを、出版社サイトから無償でダウンロード出来ます。

2020年4月23日木曜日

ビッグデータと機械学習

自動車と馬車の違いだって、厳密に説明するとしたら、それらの専門家でなければ不可能ですが、普通には、簡単に説明すれば良いことです。
「ビッグデータと機械学習の違い」、「機械学習とディープラーニングの違い」も、本当は易しく語って良いはずですが、今はまだ、これらについて、専門家しか語らないから、難しく思えるのです。
しかし、今や誰もが、ビッグデータと機械学習、そして、機械学習とディープラーニングを区別しつつ解っている必要があります。
そして、自動車を運転するためには、自動車の専門知識ではなく運転の仕方さえ知っていれば良いように、ビッグデータ、機械学習、ディープラーニングについても、これらを役立てる方法を知っていれば良いのです。

◆機械学習とディープラーニングの違い
まず、機械学習とディープラーニングの関係は、電車と新幹線の関係と同じです。
新幹線が電車であるように、ディープラーニングも機械学習です。
数学の「集合」で言うと、次のようになります。
※「a∊A」は、「aは集合Aの要素」という意味です。

新幹線 ∊ 電車・・・新幹線は集合「電車」の要素
ディープラーニング ∊ 機械学習・・・ディープラーニングは集合「機械学習」の要素

高級な電車が新幹線であるように、高級な機械学習がディープラーニングなのです。
逆の言い方をしても、この2組(電車と新幹線、機械学習とディープラーニング)はよく似ています。
つまり、新幹線も電車ですが、電車が新幹線とは言いません。
同じく、ディープラーニングも機械学習ですが、機械学習がディープラーニングとは言わないのです。

◆ビッグデータと機械学習の違い
ビッグデータと機械学習は、目的は同じですが、根本的に違うものです。
共に目的は、沢山のデータを使って推測を行うことです。
では、重要な違いは何でしょうか?
ビッグデータでは、データを数学的手法で分析して推測します。
よって、ビッグデータ分析は、データサイエンティストと呼ばれる専門家でなければ不可能です。
一方、機械学習では、AIがデータを分析し、推測しますので、AIにそれを行わせる人間に必要なスキルは、その前段階の作業をするだけです。
前段階の作業とは、データを整理することです。
よって、機械学習は誰でも使えます。
確かに、前段階のデータ整理のやり方は習得する必要がありますが、それほど難しくはありません。
ビッグデータの場合も、前段階のデータ整理は当然ありますが、それは、後のデータ分析と一体であり、難しいものです。

◆ビッグデータと機械学習のデータ量
データ量に関しては、通常、ビッグデータの方が機械学習より、ずっと(あるいは、桁外れに)多く必要です。
一概に言えませんが、ビッグデータでは、ゴミのようなデータも捨てずに取り入れ、普通には想像もつかないような多量のデータを使うことがよくあります。
しかし、機械学習のデータは、出来る限り整理された「きれいな」ものを選び、とんでもない量のデータを扱うことは、普通ありません。
それで、どちらの推測の方が精度が高いかと言いますと、それは、あくまでデータサイエンティストの能力や、AIの性能によります。
また、いずれを使うべきかは、場合によります。
例えば、データ量があまり多くない場合は、機械学習が有利、あるいは、機械学習しか使えません。
しかし、莫大なデータ量のビッグデータが、恐るべき正確な予測をすることもあります。

◆ビッグデータと機械学習の融合
すると、こんなことを思いつくかもしれません。
ビッグデータのデータを、データサイエンティストが分析すると同時に、機械学習させるということです。
確かに、それが良い場合があり、実際に行われています。
そして、その結果、同じような推測結果になる場合もあれば、かなり、あるいは、全く異なる推測結果になる場合もあります。
ただ、機械学習では、扱えるデータ量に限界がありますので、純粋にビッグデータ分析を行う場合と比べ、データの選別を行う場合が多いでしょう。
けれどもそれは、ビッグデータの良さを損なうかもしれません。

◆一般の人が使う道具
ビッグデータと機械学習の使い分けが必要ですが、ビッグデータは、極めて多量のデータを必要としますし、分析に専門的なスキルが必要になります。
つまり、専門家のものであり、誰でも出来る訳ではありません。
しかし、機械学習は一般の人でも使えるものであり、実際、誰もが使う必要があるものです。
よって、我々は、機械学習のやり方を身に付けるべきと思います。

ブログオーナーKayのAI書籍です。
数学講師Mr.Φとの共著です。

足し算、掛け算、素数判定、モンティ・ホール問題、東大入試数学出題分野予測、シュレディンガーのエイリアン、囚人のジレンマ等、面白い問題の回答をAIに推測させます。
これらのデータを作成出来るExcelマクロのシミュレーションプログラムが無償ダウンロード出来る特典付です(東大入試のみ別方法でデータ作成しましたので含まれません)。

2020年4月9日木曜日

『楽しいAI体験から始める機械学習』トピック(4)

~野球がちょっと上手い気楽な近所のお兄さんから野球を教えてもらうようにAIの作り方を学べないか~

野球のようなスポーツでも、楽器演奏のような芸術でも、あるいは、プログラミングのような技術でも、多くの人達が好ましく思う習得法は、専門のコーチがいる学校の部活や専門の学校に通うことと思います
しかし、そういったものの場合、画一的なやり方が押し付けられる傾向があり、それに順応しない場合は、落ちこぼれます。
そして、それに順応しないことは、必ずしも能力がない訳ではなく、エジソンもアインシュタインも学校では落ちこぼれでした。

正統な学習や訓練でない方法でなくても道は多く、その方が柔軟に学べ、想像力を育てる場合も多いのではないかと思います。
例えば、野球が得意でない小学生が、運良く近所のちょっと野球の上手い気楽なお兄さんから手取り足取り教えてもらって、格段の上達をする場合もあります。
実を言うと、全く野球音痴の小学生だった私が、元は野球部員だった近所のお兄さんに教えてもらうと、その分かり易さや、楽しさは素晴らしく、あっという間に上達したものでした。
ただ、あまりにこだわりの強いお兄さんなら、あまり教わりたくない場合が多いですが(笑)。

私のAI書籍『楽しいAI体験から始める機械学習』も、ちょっと野球の上手いお兄さんから野球を教えてもらうような感じでAIの作り方を身に付けられると良いと思います。
普通の機械学習やディープラーニングの書籍では、決して扱わないような単純な例を取り上げ、それを自分で手を動かしてやってみると、AIの作り方が解るように書きました。
一度でよく解らなくても、内容が簡単ですので、何度か繰り返すと解ってくるのではないかと思います。

数学がかなり出来、プログラミングに自信があるなら、TensorFlow(代表的な深層学習フレームワーク)とPython(プログラミング言語)を使う本格的な技術書で学べるのだと思うのですが、ほとんどの人には、そんなことは不可能ですし、そんなことが出来る人だけがAIをやれば良いのではありません。
また、技術者でないなら、AIの表面的な概要が分かれば良いというのでもありません。
AIを作るために本当に大切なことは、
問題を予測問題として捉え直すセンス」
で、これは、理系文系はあまり関係ありません。
そして、今後の世界では、AIが使えること、AIを自分で作れることが、おそらく、非常に有利になってくると思います。
『楽しいAI体験から始める機械学習』だけで全てOKとは言いませんが、他に、普通の人がAI開発に取り組むきっかけになる適切な本がありませんでしたので、書いてみました。

『楽しいAI体験から始める機械学習』
技術評論社
Kay著、MrΦ著
2020年5月11日発売

本書内のほぼ全ての実習のためのデータ作成が出来る、VBAシミュレーションプログラムが組み込まれたExcelファイルを出版社サイトからダウンロード出来る特典付です。

2020年4月5日日曜日

『楽しいAI体験から始める機械学習』トピック(3)

私は、『楽しいAI体験から始める機械学習』で、AIや機械学習に関する、高度な技術や理論を提示する意図はありませんでした。
教科書を教えるように書くことではなく、Excelが使える(あるいはこれから使えるようになる)普通の人が、どうすれば、自分でAIを作れるようになるかを考えました。

AIは、思考するのではなく、推測する道具と言って良いのではないかと思います(よって、AI自身が地球を征服しようとはしません)。
だから、それぞれの人が、身近な問題をAIに解かせるには、その問題をいかに推測問題に捉え直せば良いかが自然に身に付くよう、普通に考えられる、そして、面白いテーマを考えました。

機械学習の実習の定番に、手書きの数字(0~9)をAIに読ませるというものがあります。
つまり、フリーハンドで書いた数字が、0から9のどの数字であるかをAIに推測させるというものです。
これは、沢山のサンプルを学習することで、AIは正解率を高めていきます。
ただ、そんな問題、面白いでしょうか?
それをやって、すぐに何かに応用出来るでしょうか?
確かに、理論を勉強するには適した題材だと思います。
しかし、私は、理論よりも、自分でAIに推測させることを楽しむことで、自分の問題をAIに推測させるコツを掴んで欲しいと思います。
そのために、厳密には正しくないやり方もあったかもしれませんが、試行錯誤してAIの使い方が身に付くよう、ちょっと乱暴なこともやらせています。
ロジスティック回帰、サポートベクタマシンといった難しい言葉は一切使いません。

とはいえ、この本で使ったソニーNNCによって、有名なデータサイエンス企業Kaggleが提供する、タイタニック号の乗客名簿から生存者を予測するコンテストにも参加し、ある技術系有名雑誌の専門家が複数で競って出したよりも高い成績を出し、Kaggle参加者の中でも、割合に上位にランキングされました(しかも1発で)。
これも、この書籍に収めようとして、一度書いたのですが、Kaggleにデータの掲載許可を求めたところ、一応、契約を結んで欲しいという返事があり、時間がかかりそうなこともあり、また、これに関しては、既に、上に述べた雑誌や書籍、あるいは、数多くのブログで取り上げられていましたので、本には載せないことにしました。
(書籍出版後、このブログに掲載することも検討します)

『楽しいAI体験から始める機械学習』

出版社:技術評論社
著 者:Kay、Mr.Φ
出版日:2020年5月11日

AIは誰でも作れる時代。
まず、あなたから。

第3回終了

2020年4月1日水曜日

『楽しいAI体験から始める機械学習』トピック(2)

モンティホール問題をご存じでしょうか?
1990年頃と思いますが、アメリカの、モンティホール氏が司会を務めたテレビ番組で行われたゲームから起こった問題です。
そのゲームは、こんなものです。

3つのドアがあり、そのどれかに豪華景品が隠れています。
例えば、Bに豪華景品があるとします。

A(ハズレ)
B★アタリ★
C(ハズレ)

プレーヤーはAを選んだとします。
すると、モンティホール氏は、Cを開けます。Cはハズレです。

A(ハズレ):プレーヤーの選択
B★アタリ★
C(ハズレ):モンティホール氏が開放

ここで、モンティホール氏は、プレーヤーに最後の選択を迫ります。
「AのままでもOK。でも、Bに変えてもいいですよ」

アタリは、AかBですので、五分五分です。
プレーヤーは悩みます。
プレーヤーはどうする・・・って、どうしようもありません。ヤマカンで選択するしかありません。

ところが、驚異的に頭が良い女性(IQ228という説がある)がいて、「Bに変えるのが正しい」、つまり、いかなる時も最後で選択を変えるべきと断言しました。
それで、豪華景品を得る可能性は2倍になります。

「そんなアホな!」と思ったあなたはアホではありません(彼女ほどの天才ではないかもしれませんが)。
だって、この天才女性が、その発表をした後、10000人もの人が彼女を「アホだ」と批判し、その中には、プロの数学者、博士も沢山いたのです。
彼女が正しいことが解るのに、かなりの時間がかかりました(今でも解ってない人が大半ですが)。
でも、彼女は正しかったのです。

さて、私の本で、このモンティホール問題を扱いました。
ただし、難しい数学でどうこうするのではなく、AIに解かせてみた訳です。
AIは、足し算を学習した時と全く同じようにモンティホール問題を学習し、足し算の原理を自分で理解したように、モンティホール問題の原理を自分で理解したのです。
それも、割とあっけなく。
AIにとっては、足し算もモンティホール問題も同じであるかのように。
そして、AIは、「選択を変えなさい」と、ちゃんと教えてくれました。

それを、あなたも、無料WindowsアプリであるソニーNNC(高性能な機械学習用アプリ)で出来るよう、丁寧に解説しました。
共著者のMr.φさんは数学講師らしく、数学で解説するというオマケ付ですが、そちらは納得出来るかどうかは分かりません。
そして、このモンティホール問題をシミュレートするExcel  VBAプログラムを組み込んだExcelファイルを、出版社サイトからダウンロード出来るようにしました。
このプログラムで、AI(ここではNNC)に与えるデータを柔軟に作ることが出来ます。

2回目終了。

2020年3月30日月曜日

『楽しいAI体験から始める機械学習』トピック(1)

来月(2020年4月)、私と数学講師Mr.φさんとの共著のAI(機械学習・ディープラーニング)書籍、

『楽しいAI体験から始める機械学習』

が、技術評論社から出版される予定です。
この本のトピックを、少しずつ語っていこうと思います。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

今のAIは凄いと言われます。
その通りです。

スマートフォンをお持ちなら、Googleアシスタントという素晴らしいAIを誰でも無料で使えます。
「17条憲法って何?」
「2048年9月2日は何曜日?」
「4068かける992は?」
「モーリタニアの首都は?」
などと声で質問したら、即座に答を言ってくれます。

ところが・・・
「11って、素数?」
「5は奇数?」
って聞くと、アシスタントは答えをはぐらかします。
なぜ、こんな簡単なことを・・・と思うかもしれません。
私の本では、そんな例をもとに、AIの得意不得意も説明しようと思います。

私の本では、誰でも自分で、無料でAIが作れるようになることを目指しています(実際に作るにはExcel程度は必要になります)。
機械学習ソフトは、ソニーの無料のWindowsアプリNNC(Neural Network Console)を使います。私なら1憶円と言われても驚かない凄いソフトだと思います。

最初は、拍子抜けするほど易しいことをAIにやらせるのですが、易しいと言っても、苦労して子供に教えるような内容です。
それを確かに、AIは自分で学ぶのです。
例えば、算数の足し算です。
ところが、足し算の仕方を直接AIに教えなくても、問題と答を与えていけば、AIは自力で学び、足し算が出来るようになります。
そして、天才や博士でも分からない問題のデータ(問題とその答)を与えたら、AIは算数と同じように、それを学び、答を出せるようになるところもお見せします。
足し算も、難問も、同じように学ばせることが出来る訳です。
つまり、AIに足し算を学ばせる方法が分かれば、少しの応用で、あなたは、あなたが抱える難しい問題もAIに学ばせ、答を出させることが出来るかもしれないのです。

1回目終了。

2020年3月25日水曜日

AIを自分の手で作ろう

少し前から、極めて高度なレベルの討議において、
「そう遠くなく、AIは人類の知性をはるかに超え、そんなAIがもし人類を不都合な存在として排除しようとしたら、能力の差から、人類に対抗手段がない」
と警告が発せられることがありますが、そんな警告を表明する者の中には、オックスフォード大学の、あらゆる学問に通じた天才哲学者ニック・ボストロム、時代を超えた事業家イーロン・マスク、マイクロソフト創業者で世界一の大富豪ビル・ゲイツ、さらには、神に最も近い知性を持つとまで言われた物理学者スティーブン・ホーキングら、人類トップクラスの頭脳の持ち主達も含まれます。
一方、FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグや、元MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏など、「そんなことはあり得ない」と断言する人達もいます。

◆AI自体が脅威なのか?
ただ、最近はTEDでのスピーチを聞いても、この問題に対し、当を得た見解を述べる人が多くなったと感じます。
これらの人々の趣意は、一致する方向にあるように思います。
それらのスピーチの主旨を簡単に言うと、こんな感じと思います。

現在のAIは確かに驚異的なテクノロジーですが、本当の問題は、例えば原子力のように、権力者達が、それを使って間違いを犯すことです。
既に、AIを使って、権力を独占したり、人々を監視し、自由を奪うようなことが行われつつあるように思われます。AIには、それを可能にする力があります。

そこで、ブロックチェーンのように、強大なテクノロジーは、特定の権力者ではなく、全ての人が管理するようにしなくてはならないのだと思います。

◆AIは本当に人間を超えるか
現在のコンピューターを構成しているシリコンチップは原子の大きさに近付き、原子より小さくは出来ませんので、やがて性能の限界が訪れます。
しかし、これに関しては、シンギュラリティの提唱者であるレイ・カーツワイルは、「昔、真空管がトランジスタに変わったように、現在のLSIに代わる新しいテクノロジが出来るはず」と述べ、その「新しいもの」の候補の1つが、三次元分子コンピューターだと言います。
しかしこれはまだまだ、研究段階のテクノロジーです。
量子コンピューターは、今は適用範囲はそれほど広くありませんし、安価になったとはいえ億円単位で、大がかりな設備も必要です。
とはいえ、いつかは、現在のコンピューターとは根本的に構造が異なる、比較にならないほど高性能のコンピューターが登場することは間違いありません。
しかし、それでAIが人間を超えると考えるのは早計と思います。

◆優秀な人がなぜ間違う
なぜ、ビル・ゲイツやイーロン・マスクのような極めて優秀な人達が、AI自体が人類の脅威になるなどと考えるのでしょう?
AIが人間の知性を超えると言う人達は、自分の手でAIを作ったことがないのだと思います。
確かに、人間の脳の推測性能を超えるコンピューターは今でも作れるかもしれませんが、AIを自分で作ってみれば、AI自体が人類を征服しようなどとは決して思わないシロモノであることが分かります。
実際、AIの能力は、ある面では恐るべきものです。
しかし、AIは小学生でも出来る素数の判定すら出来ないのです。
つまり、AIは非常に優秀な面がある反面、子供にも(ひょっとしたらチンパンジーにも)及ばない部分も少なくないのです。
本当に危険なのは、上でも述べた通り、AIを自分の利益のために使おうとする権力者なのです。

◆AIは誰でも作れる
今や、AIを自分で作ることは難しいことではありません。
しかし、イーロン・マスクのような、極端に時間単価の高い人がやるには向いてないことでもあります。
その理由は、まず、AIを作るには、試行錯誤が必要で時間がかかることがあります。
ビル・ゲイツやイーロン・マスクらが、そんな作業をする場面は想像が出来ません。
しかし、AIを本当に理解し、権力者によるAIの悪用を阻止するためにも、多くの人々に自分でAIを作っていただきたいのですが、ほとんどのAIの本は難しく、普通の人には歯が立ちません。
そこで、筆者が、誰でもAIを作る方法を教える本を書きましたので、それを活用願えればと思います(※)。

◆自分でやってみることの大切さ
DIY(Do It Yourself)という世界的に有名なスローガンがあります。
「何でも自分でやろう」という意味です。
第二次世界大戦でナチス・ドイツに破壊された街を、ロンドン市民が自分達の手で復興させようとした時に、このポリシーを掲げました。
これが大きなムーブメントを起こして、やがて全ヨーロッパに、そして、アメリカに、さらに世界中に広がりました。
そして現在、専門家に金を払ってやらせていたこと(製作や修理等)を、「自分でやる」心構えを持つことの価値が見直されています。
それは、単にコスト削減のためだけでなく、新しい創造性を発揮することにつながったり、プロにとっても、これまで見落としてきた重要なものを発見する機会になります。
そもそも、ビル・ゲイツがパソコンを世界的に普及させた時のポリシーがまさに、「大学や大企業の専門家だけが使えるコンピューターを誰もが使えるようにしよう」だったはずです。
イーロン・マスクも、ビル・ゲイツも、若い頃は自分で熱心にプログラミングをしましたが、巨大な事業を営む彼らには、そんな時間がなくなってしまい、少し大切なことを忘れてしまったのではないかと思います。

以上です。

※『楽しいAI体験から始める機械学習』(技術評論社)2020年4月出版予定

2020年3月5日木曜日

新しい時代の業務システムとは

今の時代、コンピューター業務システムを持たない会社は少ないと思います。
しかし、社会とテクノロジーが急速に進歩し変化する時代には、新しいタイプの業務システムが必要です。

◆事業を発展させるシステムとは
コンピューターシステムは今や、単に業務効率を上げたり人員削減を目指すためのものではなく、事業の発展を推進する役割を担うべきものです。
しかし、実際には、システムが事業の発展の足枷になっていることがよくあります。
事業の発展に貢献するシステムは、事業の成長や変化に対応して柔軟・迅速に変化する必要があります。
多くの会社では、システムを一旦完成させれば、それで安心しているようですが、そのままでいては、事業を硬直化させ、将来の発展を阻害し始めます。
本当は、システムは作ってからが重要なのです。
システムが変化していないなら、ライバルも社会のニーズもどんどん先に進む時代の中、その会社は化石化します。
システムと一体化しながら進歩する事業でなければ、今後は、特に海外との競争に勝てそうにありません。

◆変化に強いシステムとは
ところが、「システムは無闇に変えてはいけない」と考えている人が沢山あります。
そう考えるようになった原因は、古いタイプのシステムは、改善・拡張が難しいと共に、無理にそれを行うと、システム全体に渡って予期せぬトラブルが起こるからです。
しかし、今は、完成後、変化し続けることを前提にシステムを開発しなければならず、そんなシステムが作られるよう、初めから計画しておく必要があります。
そして、もう1つの大きな問題は、企業で権限を持つ人が、システムを変えようとする気はあっても、その方針が不合理なことです。これは、権限を持つ者が新しいITに無知なことから起こります。

◆変化に対応するツールを
システム開発に当たっては、修正や拡張が容易に出来る開発ツールを採用することが重要です。
現在は、JavaやPHPといった普通のプログラミング言語でも、開発や改造の効率が上がるような工夫が取り入れられていますが、まだ十分とは言えないと思います。
もっともっと、簡単に修正や拡張を行えるツールが望まれます。
ただし、そのツールが、将来、長く存続することが必要です。
つまり、そのツールを開発・販売する企業が今後も発展し続け、そして、そのツールが将来に渡って人気があり、開発・販売会社によるバージョンアップとサポートが続けられるという確証が得られないなら、採用すべきではありません。
プログラマー向けのオープンソースの優れた開発ツールは存在しますが、もっと簡単に業務システムを開発出来るオープンソースが登場すれば良いと思います。

◆社内開発を
開発を委託した開発会社の担当者が退職した、あるいは、会社そのものが存続していないなど、もはや珍しくはありません。
かといって、長く安定して存続することが期待出来る大手開発会社の開発費用は高いですし、大手だから安心という訳でもありません。
また、大手は、開発に失敗はしないとしても、保守的な手法を使いたがり、結果、60点のシステムに落ち着き、しかも、それは変化に弱い場合が多いものです。
また、開発会社の担当者が、ユーザーの業務の中身を理解するにも限度があり、まして、未来の計画を共有するのは現実的に無理があります。
アメリカでは、日本と比べ、コンピューターシステムを社内で開発する比率がかなり高いのは、理想的なシステムを開発するためには、社内製作が有利であるからだと思います。

◆ドワンゴの凋落
ドワンゴは、動画投稿システム「ニコニコ動画」で一世を風靡しましたが、ある時期から急激に衰退しました。
その理由は、ニコニコ動画のシステムが、根本的には初期の頃から変化せず、時代に取り残されたからです。
なぜ、あれほどの企業が、主事業のニコニコ動画のシステムを発展させなかったかはここでは置いておきますが、いずれにせよ、社会の変化についていけなかったコンテンツの末路を如実に現わしています。

◆IT教育
日本のIT教育はとても遅れていて、いまだ、プログラミングを子供にどう教えようかと議論しています。
しかし、他の多くの国では、上記に挙げたことを含め、テクノロジーと社会の関りを理解出来る教員を養成するための予算が取られています。
日本は、政治家や官僚のITリテラシーが低いと思われ、このままでは、日本の将来は危ういかもしれません。

以上です。

2020年1月24日金曜日

バーチャル店員の流行

AIが、知らない間に私達の社会の隅々に入り込んでいたように、世界そのものをデジタル化する技術が社会の有り様を変えていきつつあります。
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、それに、MR(複合現実)と呼ばれるものがそれです。
これらにより、いつか、映画『マトリックス』のように、この世界は、実は既に、コンピューターが作った仮想世界にすり替わっている・・・といったことが起こるかもしれません(既にそうなっているという説もありますが)。
そこで、実際に仮想世界を作り、活用している事例として、現在、注目を集めている「バーチャル店員」を取り上げてみようと思います。
しかし、お話は、もっと簡単な「バーチャル受付」からにします。

◆バーチャル受付
企業や役所、空港等には受付があり、相談担当者が客に対応しています。
しかし、多くの場合、テレビ電話を使えば、人間が受付にいなくても、人々の相談に対応出来ます。
テレビ電話の画面に映る相談担当者の姿は、アニメの動物か何かだと楽しいかもしれません。しかし、ただのアニメでは、単調な反応しか出来ません。
そこで、相談担当者をアバター化することが考えられます。
アバターとは、人間の分身のキャラクターで、元の人間とは姿形は違っていても、テクノロジーの力で、アバターを元の人間と同じように動かすことが出来ます。
バーチャル受付では、アバターは、相談担当者の分身です。
相談担当者は、客が見ている画面内では、ひょうきんなライオンのアバターに変換され、相談担当者が顔を動かすと、同じようにライオンが顔を動かすようなことが出来ますし、ウインクや笑顔も、アバターで再現することが可能です。
姿だけでなく声も、リアルタイムで、男性の声を女性の声に、あるいは、大人の声を子供の声に変換出来ます。
このようにして、好感を与える姿や声のアバターで相談者に対応すれば、好ましい効果が現れると思います。
例えば、臆病な子供が相手の場合は、可愛らしいアニメキャラクターのアバターと声で対応するといったようにです。
この技術は、教育用途、医療相談、介護用途等にも活用出来そうだと分かると思います。

◆バーチャル店員
上の、バーチャル受付より高度な技術が活用されているのが、現在、流行の兆しのあるバーチャル店員です。
これは、ただのテレビ電話での対応を、はるかに超えます。
それは、例えば、こんなものです。
お店の中に大き目のスクリーンを設置し、その中にバーチャル店員が現れます。
バーチャル店員は、可愛い猫人間のようなアバターとして登場すると、客を喜ばせるでしょう。
そして、そのバーチャル店員は、まるで本当にお店の中にいるかのように振る舞うことが出来ます。
なぜ、そんなことが出来るのでしょう?
実は、どこか遠くに居るバーチャル店員役の人間には、お店の中の様子が3次元的に見えているからです。
その仕組みはこうです。
お店の中では、複数台のビデオカメラで店内や商品、客を撮影し、その複数のカメラが捉えた映像データをコンピューターで合成して3次元化し、その3次元映像を遠くにいるバーチャル店員のパソコンにネットで送信します。
その3次元映像を、バーチャル店員役の人は、HMD(ヘッドマウントディスプレイ。頭に装着し、視界を覆うディスプレイ)で見ます。すると、その店員には、店内にいるのと同じように、店内の様子が360度の立体で見えるのです。
その店員が顔を動かすと、HMDのセンサーと連動し、顔を向けた先にある店内の映像が見えるのです。
これによって、バーチャル店員は、ごく自然にお店の中にいる感覚で話し、振る舞うことが出来ます。

◆さらにMR(複合現実)へ
バーチャル店員が見ている世界は、お店の中をデジタルコピーしたVR(仮想現実)です。
そして、客にとっては、猫人間のようなバーチャル店員は、現実世界(実際のお店の中)に追加された仮想の存在で、これはAR(拡張現実)です。
そして、さらに、こんな良いことがあります。
バーチャル店員は、3次元ソフトを操作し、仮想のお店の中で移動出来るのです。
バーチャル店員が客の後ろに回り込むと、バーチャル店員には、客の後ろ姿が見えるのです。そんな時、客の後ろにスクリーンがあれば、バーチャル店員はそこに映っています。
これは、バーチャル店員が見ている「仮想空間=VR」と客が見ている「拡張された現実空間=AR」が融合したことになります。このようなものをMR(複合現実)と言います。

この技術には、広く無限の活用方法があります。
例えば、学校等の授業で、遠隔地にいる教師がバーチャル教師になることが考えられます。
教師が、生徒にとって、感じの良いアバターになっても良いでしょう(年配の教師が青年教師の姿や声のアバターになる等)。
教師は、必要なら、生徒の様子を横や後ろに回り込んで見ることも出来ます。
さらには、教師も生徒もHMDを装着すれば、全くのバーチャル空間で教師と生徒が一緒に授業を行うことが出来ます。そこでは、これまでに考えられなかった授業が可能になるでしょう。
これは、医療用途や、カウンセリング用途にも有望です。
また、エンターテインメント分野では、ライブコンサートを、遠隔地に居る観客にはVRで、会場に居る観客には、MRで提供出来ます。
すると、どうなるでしょうか?
歌手が、初音ミクやVR美空ひばりなどのバーチャル歌手なら、VRで遠隔地でもライブを楽しめますし、会場にいる、HMDを装着した観客は、MR技術により、バーチャル歌手に近づいたり、後ろに回り込むようなことも、既に実際に行われているのです。

以上です。