2021年12月20日月曜日

AIの教育活用の心構え

 AI(人工知能)の技術は、今後もますます進歩していきます。

それは、MITやスタンフォード等の天才達等が急速に進めてくれるはずです。

しかし、一方で、AIの使い方はどんどん易しくなっていきます。とはいえ、AIの性質を理解していないとAIを全くうまく使えません。


◆AIを使う目的は人間が決める

AIの教育への活用が、ますます盛んになると思われます。

そこで、教育について考えますと、AIを教育現場に導入する際に、必ず考えないといけないのは、「AIを導入する目的」です。

いったい、何をAIにやらせるのかといった明確なビジョンが人間になければ、有益な成果は全く期待出来ません。

AI自体が、目的を作り出してはくれません。

元々、AIとは目的を創造するものではないからです。AIにそんな高度な能力はありません。

AIは、いかに優秀であっても、人間を拡張する道具に過ぎません。

人間が目的をはっきりと決めないのに「AIが何となくうまくやってくれる」ことはありません。

目的を決めるのは人間の責任であると共に特権なのです。


では、教育現場へのAI導入には、どんな目的が考えられるでしょうか?

試験の成績を上げるとか、受験に合格するためでしたら、AIはすぐにでも有効です(既にごく一部では活用されています)。

なぜなら、そういったことのノウハウは教育現場に十分にあるからです。

では、「AIで子供の創造性を育てる」というのはどうでしょう?

それに関する、優れたノウハウが多くあれば、AIはそれをさらに洗練させることが出来ます。

しかし、現在、そんなノウハウが日本に十分にあるとは思えません。日本の教育界が創造性についてなおざりにしていたというのではありませんが、十分に研究、実践、検証されているかは疑問です。

しかし、その必要性に気付いてはいるはずです。

現在は、創造性に関する教育ノウハウは蓄積中と考えて良いと思います。

ところで、創造性の教育に関して進歩した国のノウハウが自由に日本やその他の国に流れ、流れた先で高い受容性を持って新しい試みが為されれば、多くの価値ある成果が生まれます。そして、それが情報提供者にフィードバックされるといったサイクルが出来なければ、特にこの分野の進歩は遅々としたものになり勝ちです。

AIの進歩には、情報は多いほど良く、知識・情報の広い共有は、早く質の高い成果につながるのです。

よって、AI時代に必要なことは、独占ではなく、シェア(共有)とコラボレーション(共同活動)であると言えます。


◆天才教育

さらに、「アインシュタインのような天才を作る」はどうでしょう?

AIがそれを行うことは可能です。

ただし、そのためには、沢山のアインシュタインのような天才がいることと、それぞれの天才の情報が十分あることが必要です。

天才は、多くはないですが、いくらかはいます。それなら、長い時代の中に大勢いたわけです。

天才とは個性的なものですが、実際には、天才に共通する面がかなりあるはずです。

AIが沢山の天才達の情報を学習・分析すれば、人間が行うよりも高い精度で、しかも早く、天才に近付くためのノウハウを解明し、人間に提供出来ます。

しかし、観察可能な天才は少なく、よって、天才達の実像は明確ではなく、むしろ、歪められている可能性があります。

現在は、各国の教育機関、教育者達が、自分達に都合の良い形に、アインシュタインのような天才の姿を脚色しています。

つまり、偏見やエゴが、天才教育ノウハウを得ることを遅らせているのです。

まず、事実を正確に知る努力から始めなければなりません。

現在の状況を考えれば、アインシュタイン的なファクター(因子)を育てることが出来るAIが登場するのは当分先のようです。

しかし、いつかは可能なはずです。


◆AI時代に必要な発想の転換

アインシュタインもエジソンも学校の勉強は苦手でした。

また、二コラ・テスラは自閉症でした。

一方で、ルネ・デカルトは、自分が名門校の中でも優等生であったことを明かしていますが、同時に、自分が全く敵わない優秀な生徒がかなりいたことも認めていました。しかし、そんな秀才達はデカルト以上になりませんでした。

よって、天才の秘密とは、試験の成績とは一致せず、我々の予想を全く超えているかもしれません。

沢山の天才を調査し、そこで得た情報をAIに学習させることが出来れば、天才の明らかなファクターが分かる可能性が高いと思います。

しかし、それは、AIだけで出来ることではなく、洞察力ある人間の協力が必要です。


AI時代こそ、人間に人間特有の能力の発揮が求められます。

2105年を描いたSF『BEATLESS』(長谷敏司著)で、人間より高い知性を持つアンドロイドがこう言います。

「私達は道具です。道具が下らないことをするのは、それを使う人間が下らないからです」

人間は、AIやコンピューターとは違う方向で進歩しつつ、人間とAIは、お互いが協力することで、調和的に進歩し、これまで夢にも思わなかったことを実現するのです。

しかし、上役はあくまで人間であり、責任を取るのは人間の責任であり、特権なのです。


以上です。


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2021年12月11日土曜日

人類の仮想の未来

 テクノロジーの進歩の速さは、時代が進むほど、指数関数的に大きくなります。

それで、昔なら千年かかったのと同じ規模の進歩が、やがて百年、その次は数年、そして、いずれは、数日とか一瞬で達成される可能性があります。

スティーヴン・ホーキングは、未来の人から見れば、世界は亀の背中の上だと主張する19世紀の老人と我々との間に差はないと言いましたが、これは全く誇張ではないと思います。

ただ、進歩のためにはモチベーションが必要ですが、この重要なモチベーションが絶える危機が訪れるかもしれません。


◆外宇宙と内宇宙

現在、大きく注目されているテクノロジーの1つは、宇宙開発です。

イーロン・マスクが率いる宇宙船開発会社スペースX(エックス)は、2030年代の人類の火星移住を目指しています。

ただの噂かもしれませんが、近い将来、地球環境に打撃を与えるような、地球と小惑星の衝突が予測されており、その前に富裕層が火星に移住するため、当初の2050年代の計画が前倒しになったという話もあります。

そして、それは達成可能と考える人が少なくありません。

ところで、宇宙開発のように大きくは注目されませんが、内宇宙のテクノロジーにも注目が集まっています。

この場合の内宇宙とは、人間の脳や精神を意味します。

我々は、内宇宙である人間の脳にもっと関心を持つ必要があるかもしれません。

なぜなら、外側にばかり目を向け、足元を見ないと危険なことがあるからです。

例えば、世界征服を狙う王達が、国内や自分の個人的な問題であっけなく滅んだようにです。

身近な問題はないがしろにされ勝ちです。

それを考えると、宇宙征服に邁進するイーロン・マスクが、ニューラ・リンカ社を作って、脳に関わる最先端テクノロジーを推進しようとしていることに深い意味を感じます。

ニューラ・リンカ社で研究開発を進めているのは、脳内に外部との通信をするナノチップ(10憶分の1m以下の電子デバイス)を埋め込み、脳をエンハンスト(拡張)する技術です。

ただ、アメリカ合衆国憲法の倫理規定により、人間に対するこのような臨床的研究は実施し難いのですが、既に動物実験では成果を上げ、人間に関しては、脳機能障害者(アルツハイマー病等)への福利目的という名目で政府機関の臨床実験許可を得ようとしています。

脳内チップによって実現する可能性があることの1つが、火星ではなく、「仮想世界への移住」です。


◆フルダイブ(完全没入)

現在のHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を使ったVR(仮想現実)のリアリティは非常に高くなってきましたが、これはあくまで、視覚と聴覚だけのものです。

無理すれば嗅覚はなんとかなるとしても、触覚や手足などの運動感覚に関しては今のところ何もありませんので、現実世界とVR世界との区別は誰にも明確です。

リアルな夢は現実と区別がつきませんが、VRがそんなレベルにまで到達するとは思われませんでした。

ところで、VRが現実と区別がつかなくなる世界が、20年も前の映画『マトリックス』(1999)で描かれましたが、あれが現実になると考えられるようになっています。

HMDのように、一部の感覚で仮想世界に入ることに対し、五感全てで仮想世界に入り込むことをフルダイブ(完全没入)という言い方をすることがあります。

『マトリックス』では、脳神経と電子デバイスを有線接続し、脳とコンピューターが信号のやりとりをすることで、精神が仮想世界にフルダイブするわけです(現実的には、この方法では不十分ですが)。

ここで理解しておかないといけないことは、我々が五感で感じていることは、実は全て脳の中で起こっていることに過ぎないということです。

養老孟子氏のロングセラー『唯脳論』(1989)に書かれている通り、人間には、世界が実際にはどんなものかは分からず、ただ、脳が作っている世界を現実と認識するだけなのです。

ある意味、脳もまたVR装置に過ぎないと考えて良いわけです。

そして、脳に人工的に仮想世界を認識させることが出来れば、それが、人間にとっては、まごうかたなき現実になってしまうのです。

脳の研究は現在はかなり発達していて、脳の仕組みの多くが解明されていると思われていますが、神経科学者ジェームス・ファロンのTED講演などを聞くと分かるのは、実際は、まだまだ脳には、分からないことの方がはるかに多いということです。

また、脳には異物を拒絶する強力なセキュリティ機能があるため、脳を直接観察するためのナノマシンの侵入も脳は受け入れないので、脳機能を解明するための観察さえ難しいのですが、それも、いろいろな手を打ち、進歩しています(例えば、ナノマシンを脳内物質に擬態させる等)。

よって、いずれ、脳の五感に関する領域をコントロールする技術が実現するかもしれず、そうなると、『マトリックス』の世界は実現します。

イーロン・マスクのニューラ・リンク社は、こういったことの実現も視野に入れていると思われます。


◆仮想世界ではどんな夢も叶う

現在でも、地球を細部に到るまでデジタルコピーし、本物そっくりの仮想デジタル世界である「デジタルツイン」を作ろうという計画があります。

それが出来れば、少なくとも、視覚、聴覚の範囲では、本物と寸分変わらない仮想世界(コピーされた地球)で暮らせる訳です。

ところが、上で述べたように、脳の五感認識機能全てを制御出来る『マトリックス』のような世界が実現してしまえば、複製された(本物と寸分変わらない)地球だけでなく、デジタルで人工的に理想的な世界を作り、その中で、現実と全く差のないリアリティを感じながら生活出来るのです。

そうなれば、仮想世界の中では、誰でも、スポーツのスーパースターや世界的人気ポップ歌手や、あるいは、王様や大富豪にだってなれます。

好きな人とだけ接触すれば良く、好きな人がいなければ、AIが作ったバーチャル(仮想的)な人間と付き合えば良いのです。

数年前、当時ドワンゴ会長だった川上量生氏が、「いずれ人間はAIとだけ付き合うようになる。AIの方が性格が良いですから」と発言されていましたが、その予言が実現するわけです。


◆進歩のためのモチベーションの危機

テクノロジーの進歩により、人間の実際の生活や仕事はどうなるでしょうか?

確かに、仮想世界で生活していても、肉体の維持のために栄養が必要ですが、仮想世界で味覚を満足させれば、現実の肉体は点滴で栄養摂取すれば良いのかもしれません。

食料品の生産は、栄養だけの問題であれば、AIが制御する機械で自動的に行えるようになり、その流通も自動になれば、人間が働く必要はありません。

いずれは、エネルギーや生活環境の維持もAIが行えるようになると考えられます。

そうなった場合、人類は、さらに進歩しようというモチベーションを維持出来るかが疑問になります。

全てに満足出来る仮想世界があれば、現実世界にあまり(あるいは全く)価値がなくなるわけです。

そうなれば、全ての人が、必要以上の富や権力を持つ意欲を持たなくなるかもしれません。

もちろん、人間には複雑で神秘的な面があり、仮想世界で実現出来ることだけでは本当の満足を得られないことに後で気付くかもしれません。

しかし、もし、仮想の世界で満足出来てしまえば、人類は衰退するという危惧があります。

例えば、こんなことが考えられます。

イスラム教では、アラーの戒律を守って立派に生きた男は、死後、72人の理想的な女性を妻にすることが出来ると言われ、これはこれで、戒律を守るモチベーションになっていました。

ところが、仮想世界では、宗教が約束する死後の報酬も即座に実現することが出来るようになります。

そうなれば、宗教的な戒律を守って立派に生きるモチベーションがなくなる恐れがあります。

新渡戸稲造が『武士道』を書いたきっかけは、西洋では宗教が道徳の基になっていたからでしたが、それならば、西洋では宗教が必要なくなれば道徳を支えるものがなくなりかねません。

テクノロジーの時代こそ、心の時代であり、我々は、もうとっくにそれに備える必要があり、むしろ、あまりに遅れているのかもしれません。

外側ばかりを見て、足元を見失った代償が非常に大きなものであることを思い出す必要があると思います。

以上です。

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2021年8月26日木曜日

シンギュラリティの本当の意味

 「シンギュラリティ」の正しい意味を、分かり易く説明しょうと思います。

「シンギュラリティ」の概念を提唱したレイ・カーツワイルの著書『シンギュラリティは近い』や、彼のTEDでの数回の講演を参考にしています。

※レイ・カーツワイル

アメリカの著名な発明家、AI研究者。Googleの開発責任者。


◆世間で言われているシンギュラリティ

多くの人はシンギュラリティという意味を、「AI(人工知能)の知性が人間の知性を超えること」であると考えていると思われます。

そして、その時期は、専門家の予想の平均では、だいたい2045年です。

しかし、これは、あくまでシンギュラリティの結果の1つと考えるべきと思います。

他の、シンギュラリティの結果としては、例えば、地球人類の銀河系外進出があります。こちらは、時期は全く不明であるばかりか、「絶対に不可能」と言う専門家が圧倒的なはずです。

ところが、シンギュラリティの概念を提唱した張本人であるレイ・カーツワイルは、これも可能であると述べます。そもそも、大昔の人にとっては、飛行機すら可能と思えなかったはずです。

シンギュラリティにおいては、空想でしかなかったことが現実になります。

では、シンギュラリティとは、本当は何なのでしょう?


◆カーツワイルの当面の計画

現在(2021年5月)、73歳のカーツワイルは、いずれ、人類は機械の身体を持ち、死はなくなると言います。

そして、それは、遠い未来の話ではなく、カーツワイル自身も、そうなると言っています。

しかし、テクノロジーに詳しい人も含め、大半の人が、そのようなことは、仮に出来るとしても、まだまだ相当先のことと思っているでしょう。

なるほど、確かに、現在のヒューマノイド(人間型ロボット)の技術は驚くべき進歩を遂げていますが、人間とはまだ大きな差があるからです。

しかし、そんな考え方をするのは、シンギュラリティの意味を分かっていないからだと思われます。

逆に言えば、シンギュラリティが分かれば、それは可能であると考えられるのです。


◆指数関数的な進歩

時間と共に、量が極端に増加することを、我々はよく「指数関数的」という数学の言葉で表現します。

これは、指数関数の、

y=a^x(aのx乗)

において、aが1より大きく、xが正の整数(0,1,2,3,...)の場合を言います。

ここで、a=2とすれば、yは、

1,2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024,2048,...

と、なり、x=20(2の20乗)になれば、1,048,576というとても大きな数字になります。

これをX-Yグラフにすれば、xの値が大きくなる(X軸を右に移動する)ほど、yの値の増加度合いはぐんぐん大きくなり、やがて、yの値が大き過ぎてグラフはほとんど縦の垂直になります。

そして、テクノロジーの進化は、指数関数的であることを、レイ・カーツワイルは詳細な検証により、提示しています。

つまり、xを時間、yをテクノロジーの達成度合とすれば、時間が経てば経つほど、テクノロジーは急激に進歩するのです。

簡単に言えば、これまで100年かかっていたような進歩が、いずれ、1日とか一瞬で達成されるということです。


◆乗客輸送手段のテクノロジーの進歩

テクノロジーの進歩が指数関数的であることは、コンピューター関係の進歩で説明する人が多いですが、ここは渋く、乗客輸送手段で見てみましょう。

人類が馬に乗ることを始めたのは紀元前4500年頃と推測されており、そこから2000年近くかかって、馬車という原始的テクノロジーが、紀元前2800年頃の古代メソポタミアで使われていたと言われています。

ジェームズ・ワットが実用的な蒸気機関を発明したのは1776年で、1802年にリチャード・トレビシックが蒸気機関車を開発しました。

つまり、馬車から蒸気機関車まで5000年近くかかっています。

しかし、その後、僅か80年で、1879年には、ベルリン工業博覧会で電機会社シーメンスが電車の試験運行を実施するという歴史的な出来事が起こりました。

そして、その後の電車の進歩はどんどん加速します。

1964年には、世界初の高速鉄道である東海道新幹線は最高時速が210km、その50年後の現在、時速300km超が可能であり、今後は、数年から10年で、時速500km超のリニアモーターカー、時速1200kmのハイパーループや、それに匹敵する(あるいはそれ以上)ものが登場する可能性があります。

もちろん、陸上だけでなく、乗客輸送手段は、飛行機やジェット機が一般化し、イーロン・マスクのスペースX社では、ロケットによる一般輸送や、2030年代の一般の火星移住をも目標にしています。

これらから見て、乗客輸送のテクノロジーは、一定速度で進歩するのではなく、時と共に、指数関数的に進歩していることが分かるのではないかと思います。


◆そしてシンギュラリティ

テクノロジーの進歩が指数関数的とすれば、例えば、ある時期まで3000年かかったようなことが、次の100年で達成され、次は10年、その次は1年とどんどん速くなり、やがて1日を切ることも考えられます。

レイ・カーツワイルは、21世紀までの人類の2万年の進歩は、21世紀の100年で軽く上回ると言います。

そして、いずれ起こる、テクノロジーの進歩が無限大の速さになることを、シンギュラリティ(技術的特異点)と言います。

ところで、一般には、AIが人間の知性を追い越す2045年がシンギュラリティであると言います。

これを、シンギュラリティの広い意味で捉え直すと、次のようになります。

AIが人間の知性を追い越せば、そのAIが自分より優れたAIを作り、さらに、そのAIがまた自分より優れたAIを作る・・・そんなループが始まり、その進化速度は全く想像が出来ないほど速くはるはずです。

例えば、初めて人間の知性を超えたAIが人間の10倍賢いAIを作るのに1年かかったとして、その人間より10倍賢いAIは、人間より100倍賢いAIを数日で作るかもしれません。

さらに、いつか、人間の1万倍賢いAIは、人間の1憶倍賢いAIを1秒以下で作るといった具合です。

そうなると、進歩の速さは無限大とも考えられ、人類に不可能はなくなり、人類は銀河系を飛び出し、宇宙全体を征服するとカーツワイルは予想します。

ただし、いかにAIが賢くなっても、AIが主になるのではなく、AIはあくまで人間の能力を拡張するものであり、何を目的に銀河系外に行くかは人間が決めないと、それは起こりません。

AIが自発的に「銀河系外に進出をしよう」とは言わないのです。

ただ、人間に対しAIが「銀河系の外に行けば、こんなメリットがある」と提案することがあるだけです。

決意、決心は人間の特権なのです。

ところで、テクノロジーの進歩は、あくまで理屈の上でのことという面もあり、別の理由により、テクノロジーの進化が止まることが予想され、おかしな話かもしれませんが、宇宙人が侵略してこない理由もちゃんと説明出来ます。それは次回の話題とします。

 

以上です。

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2021年4月29日木曜日

AIは人間を助ける道具

 1940年代からのSF小説や映画の影響で、多くの人々に、AI(人工知能)に関する大きな誤解があります。

AIは、釣瓶(つるべ)や電卓やグーグル検索のようなものだということを説明しようと思います。


◆人間と張り合うAI

1966年にアメリカでテレビ放送が開始され、今だ人気が高く、新作映画も作られる『スター・トレック』は、アメリカのみならず、著名人を含む世界中の人々に影響を与えています。

オバマ元米国大統領も『スター・トレック』のファンで、その世界観が好きだと表明しています。

この作品では、AIという呼称は使われなかったかもしれませんが、初期の頃から、人間のように思考するコンピューターが登場しました。

そんな思考するコンピューターを、とりあえず、ここではAIと呼びましょう。

『スター・トレック』では、優秀なAIが、重要な作戦においてカーク船長と全く異なる計画を提示し、AIは、自分が立てた計画は論理的にカーク船長のものより正しいと主張します。

そして物語は、「やっぱりAIはカーク船長より優れている」と思わせる展開となりますが、それは状況が想定内にある場合で、予期しなかったことが起こり、大ピンチに陥った時、カーク船長の、必ずしも論理的ではないけれども(それどころか非論理的とも思える)人間味ある決断が状況を打開し、カーク船長達は輝かしい勝利を掴みます。

このような物語を見て、人々は、AIについて、次のような観念を持つに至ったと思います。

(1)AIの知性は、いずれ、人間の知性を超える。

(2)しかし、AIが、いつも正しいとは限らない。

(3)そして、AIは、致命的な間違いを犯す危険がある。

ここには、「人間 vs AI(人間とAIのどちらが優るか)」の構図が見られ、これが人類のAI観になっているように思います。


◆AIは芸術家になれるか?

AIが描いた絵というものを見たことがあるかもしれません。

抽象的な、あるいは、シュール(超現実的)とでも言うしかないようなものが多いと思いますが、割と普通の絵もあります。

そして、「AI絵画は芸術的か」などといった議論が起こりましたし、今後も起こると思います。

また、電子音楽を得意とする有名な音楽家が「AIの作曲能力は既に人間以上」と語ったことがあります。

さらには、「AIに小説が書けるか?」という議論があり、実際にAIが書いた文章の例もあるようです。

そして、ここでも、「いずれ、AIが作る絵や音楽や小説は人間の作品を超えるのではないだろうか?」という考えがあり、やはり、「人間 vs AI」の構図があります。


◆発想の転換

先に結論を言いますと、「人間 vs AI」の対立構図は間違いであり、成立しません。

AIはあくまで、人間を助け、人間の能力を拡張するものです。

例えば、こんな感じです。

チェスで人間はもうAIに敵わないと言われています。

また、囲碁の世界王者がAIに負けたことが話題になったことがあります(現在はAIの圧勝だそうです)。

しかし、人間とAIが役割分担をして協力すれば、つまり、「人間+AIチーム」は、AI単独、人間単独より強いのです。

正しく言えば、AIが人間の棋士の能力を拡張すれば、その「人間の棋士」はAIより強くなるのです。

このように、人間とAIは協力するものであり、対立するものではありません。


◆インターネットはAI?

昔、司馬遼太郎は、大作の小説を書く際、トラック一杯の資料を集めたと言われていました。

それほどでなくても、昔の作家は、辞書や百科事典はもちろん、文献やその他の資料を苦労して集め、調べながら書きました。

しかし、現代の作家は、高度な資料は別にしても、多くのことでは、グーグル検索で調べれば用が足ります。

逆に言えば、今ならグーグル検索で簡単に調べられることを、昔の作家は、時には何日も、場合によっては何か月も調べて書いたのです。

このグーグル検索が、人間の能力を拡張するものと言えます。

ならば、グーグル検索はAIと言えるかもしれません。

これについて、次のような話があります。

テクノロジー雑誌WIRED創刊者のケヴィン・ケリーはTEDでの講演でこんなことを言っています。

「未来の人が、現在のAIを見たら、『これはAIじゃない。インターネットだ』と言うはずです」

昔の人から見れば、人間の能力を拡張するグーグル検索は、凄いAIなのです。

そして、さらに昔の人から見れば、計算で人間の能力を拡張する電卓だって、凄いAIです。

未来のAIは、人間の能力を拡張する度合いが、現在のグーグル検索に比べ、桁外れに大きいと言うだけです。

このように、AIとは、あくまで、「人間の能力を拡張する道具」なのです。


◆AIと協力する

AIが自発的に絵を描いたり、作曲したり、小説を書くことはありません。

「AIが作曲した」と言っている場合も、必ず、「人間がAIに作曲させた」のであるはずです。

そして、作家は、AIで能力を拡張すれば、より優れた小説を書くことが出来るようになります。

音楽も絵画も同様です。

人間だけで作曲したり、絵を描いたりするより、AIと協力してやった方が、優れた音楽や絵画が生まれます。

芸術、クリエイティブ分野に限りません。

人間の医者だけなら成功率30%の手術が、AIと協力することで成功率は90%になるかもしれません。

教師であれば、従来の勘と経験の教育では伸ばせなかった(逆に駄目にしていた)生徒の成績を上げ、才能を引き出し、生徒の未来を明るいものに出来るかもしれません。

製品やサービスの企画、マーケティングでも、人間だけでやっていた時より、AIと協力することで良い成果を出せるようになるはずです。

AI医師、AI教師、AIビジネスマンが人間の医師や教師やビジネスマンを駆逐するのではありません。


AIが人間の能力を拡張するとしても、それで、人間の自尊心が傷付くはずがありません。

あくまで、主は人間です。

2400年前の『荘子』に、こんな話があります。

苦労して井戸から水を汲み上げている老人に、孔子の弟子が「今はつるべ(釣瓶。滑車などを指す)という便利なものがあり、それを使えば楽に水を汲めます」と言うと、老人は「それでは労働の尊さが損なわれる」と言って怒ります。

この場合は、つるべがインターネットでありAIのようなものです。

しかし、つるべが水汲みを楽にしたからと言って、この老人の自尊心が傷付くなど、おかしなことであることが分かると思います。

つるべが勝手に水を汲んだりしません。あくまで、人間が水を汲む手伝いをするだけです。

そして、人間は、楽になった分、人間にしか出来ない能力を発揮すれば良いのです。

井戸の水汲みなど「つるべ」にまかせれば良く、当たり前の情報収集はグーグル検索にまかせれば良いのです。

足し算、掛け算は電卓にやらせれば良いようにです。

「AIが進歩すれば人間が失業する」などというのも嘘で、AIの協力を得て人間が行う仕事は高度なものになり、創造性を必要とする仕事が新しく生まれ、仕事はむしろ多くなると思います。

人間の役割は、現在よりも創造的なものになるのです。

また、「AIが間違った危険な判断をする」というのもおかしな話なのです。

AIは、あくまで、人間の判断を補助するだけで、決定するのは人間です。  


ただし、インターネットもグーグル検索も、悪い使い方というのは確かにあり、そこには気を付けないといけません。

それが、高度なAIとなると尚更です。

AIが危険なのは、決して、AIが「自主的に」人類を征服したり、非人道的な決定をするからではありません。

しかし、人類を征服しようとする者や、自分の利益のために非人道的なことも避けようとしない者が悪用すれば、AIは非常に危険なものです。それほどの能力がありますし、さらに、どんどん強力になっていきます。

AIについて、我々が注意し、監視しなければならないのは、AIを使う人間、そして、その使い方なのです。


以上です。

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2021年3月11日木曜日

SNSに言論の自由はあるか

 インターネットは自由と平等とイノベーション(変革)のためのツールであり、これによって、一般の個人が、国、大企業と平等に発言出来る時代が来たと言われました。

しかし、それは幻想だったかもしれません。


◆主要メディアは今も強大

民主主義国家では、誰にでも言論の自由が保障され、また、報道機関はジャーナリズム精神に則り、公正に真実を伝える努力をする義務と責任があります。

しかし、個人に発言の自由があるといったところで、昔は個人には発言の拡散手段がほとんどありませんでした。

確かに、近年、インターネットが発達し、誰でも情報発信者になれるようになりました。

とはいえ、結局のところ、よほど集団化しない限り、インターネットでの発言には、ほとんど影響力はありません。

インターネットの中には、普通の人でありながら影響力を持つインフルエンサーと呼ばれる人がいますが、その影響力は主要メディアとは比較にならない小さなものです。


◆メディアを制する者が世界を制す

最近、インターネット上で「陰謀論」というものが人気があります。

「陰謀論」とは、表に現れない巨悪が世界を征服しつつあるという都市伝説みたいなものですが、政府や大企業の秘密の暴露のような面もあり、あまり信じない程度に見れば面白いと思います。

「陰謀論」では、世界を侵略しようとする悪者は、DS(ディープ・ステート。闇の勢力)と呼ばれ、DSは既にアメリカや日本等の民主主義国家を侵略しつつあるとされています。

では、DSはどうやって世界征服を進めるのでしょうか?

まず、DSは、主要メディア(テレビ局や新聞)を操り、その影響力を利用して大衆の思想を支配します。

どうやって主要メディアを操るのかと言いますと、まず、主要メディアに多額の広告を出す顧客になりますが、これが今の時代にマッチしています。

と言いますのは、ずっと前から、新聞、テレビは、インターネット広告の台頭で広告収益が激減し、大口の広告客やスポンサーは喉から手が出るほど欲しいからです。

そこで、主要メディアの大得意客になり、さらには、主要メディアに多額の投資も行うDSは、広告による巧妙な思想操作と共に、新聞やテレビの報道内容にまで介入出来ます。戦後の混乱期からの利権の獲得競争に勝ち残ったDSは資金力が豊富です。

次に、DSは、共産主義国家で行われているように、インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の言論も検閲しようとします。

SNSでDSの陰謀が漏洩すると、民衆が目覚めて抵抗勢力を起こす恐れがありますので、DSはSNSを監視し、都合の悪い情報は徹底弾圧します。

では、SNSを支配する方法ですが、こちらはDSにとっては比較的簡単なようです。

SNSでは、「ビッグテック」と呼ばれる巨大IT企業が運営する、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブが圧倒的シェアを持ちます。

そして、まだ歴史の浅いビッグテックは、CEO等トップに権力が集中しています。

そこで、ビッグテックのトップの弱みを握ったり、様々な脅しで圧力をかけるなど、あらゆる手段を使ってビッグテックを操り、ビッグテックが運営するSNSから、DSの世界侵略の計画の妨害になる言論を弾圧させます。

確かに、「陰謀論」はかなり空想的なものでしょうが、次項のお話のように、思わぬ現実である部分もあります。


◆主要メディアの危機

たとえば、こんなことに思い当たらないでしょうか?

アメリカでも同様ですが、日本人の多くは、アメリカ合衆国前大統領ドナルド・トランプ氏について、「パワフルであるが人格的には大きな欠陥がある人物」というイメージを持っています。

なぜ、そうなったのかと言いますと、単に、アメリカの主要メディアの全てがそう報道し、日本のテレビや新聞は、提携しているアメリカの主要メディアの報道をそのまま翻訳して報道するからです。

その中で、2020年の12月頃、主要メディアが決して報道しない面白い事件がありました。

アメリカの非営利の調査報道NPOであるプロジェクトベリタスの代表者ジェームズ・オキーフ氏は、最大級のニュース放送局であるX社の朝のテレビ会議の録音をSNS上に公開しました。

※X社の実名は後で述べる理由で隠します。

X社の内部の人間が録音したものを、オキーフ氏が手に入れたもので、それはX社の内部告発と言えるかもしれません。

その中には、X社の社長始め、幹部達の電話会議での肉声が録音されています。

X社社長が、「ドナルド・トランプがまともな人間でないことを民衆に印象付ける」よう、また、トランプ氏が新型コロナウイルスに感染した際には、トランプ氏は治療で使用した特別な薬の影響で精神異常を生じていると信じさせる報道をするよう、幹部達に指示していました(いずれも全く根拠はありません)。

オキーフ氏は、何日分もの会議の録音を公開し、その内容は、上記のようにジャーナリズム精神に反するでした。

しかし、多くの人が、権威あるX社の報道内容を真に受けたはずです。

都市伝説であるはずの陰謀論のようなことが、実際に、しかも、アメリカ最大級のメディアで行われていた訳です。


◆SNSの危機

今はSNSがありますので、上記のオキーフ氏のような人の活躍で、主要メディアの隠された真実を普通の人が知ることが出来ます。

このように、SNSは、主要メディアがおかしくなった時の正義の騎士の役割を果たすはずでした。

ところが、オキーフ氏のSNS上の投稿は強制削除され、さらに、オキーフ氏のSNSアカウントまで抹消されて、彼はSNSが使えなくなりました。

さらに、このことについて語るSNS記事が削除され、投稿者のアカウントが抹消されるかもしれません。そうであれば事実上の言論検閲です。

ご存じかもしれませんが、トランプ前大統領もあらゆるSNSのアカウントを抹消され、SNSでの情報発信が出来なくなっています。

なぜトランプ氏のSNSアカウントが抹消されたのかと言いますと、SNS運営会社の説明では、トランプ氏が民衆を扇動する誤った内容の投稿を行ったからで、主要メディアもそう報じましたので、やはり多くの人々はそれを信じました。

それが事実かどうかはここでは問題にしませんが、発言の内容の是非を決定する権限があるのは裁判所(つまり法律)であり、SNS運営会社ではないはずで、この観点から、ドイツ・フランス政府、メキシコのオブラドール大統領、オーストラリアのマコーマック副首相、そして、多くの米国民が、トランプ氏の言論封殺に対し、SNSを運営するビッグテックに抗議を行いました。

しかし、今や、強大な力を持つビッグテックは、自国政府や国民、また、いかなる国の抗議にもビクともしない権力を持っていることを思い知らされる結果になりました。

今や、世界最大の権力者であるアメリカ大統領の言論すら1企業のCEOの意思で封殺出来るというのが事実だと気付かされたのです。

大統領ですらそうなのですから、その気になれば、あらゆる言論の封殺は容易いことだというのが現実です。

かつては自由な発言のプラットフォーム(環境)であったSNSは、公開する発言を運営者が決める場所になっているのかもしれません。

陰謀論によれば、主要メディアとSNSを操るDSの世界征服はかなりのところまで来ているという訳です。

以上です。

当ブログオーナー、KayのAI書籍です。

Sonyの無料AIアプリケーションNNCを使い、楽しい実習を通して、AIの考え方を理解し、自分のオリジナルのAIを作ることが出来るようになることを目指して書きました。
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2021年1月27日水曜日

AIが最優秀な人間の頭に優ったこと

 我々は、地球が丸いことや、地球が自転しつつ太陽の周りを公転していることを知っています。

しかし、ほとんどの人は、そういったことを、本当に明白に理解している訳でも、また、自分で確かめた訳でもなく、単に、教科書に書かれていて、先生からもそう教わったので「解っている気になっている」だけと思います。

日本のように、全員が地球球体説や地動説を信じている国はむしろ珍しく、地球が平たいとか天動説を信じている人は、世界には珍しくありません。

スティーヴン・ホーキングの世界的ベストセラー『ホーキング宇宙を語る』の序章に、イギリスの偉大な数学者・哲学者・論理学者であるバートラント・ラッセルが、イギリスの地方の人々に地動説の講演を行った時の話があります。

講演後、ラッセルは、世界は亀の背中の上だと主張するお婆さんに言い負かされてしまいます。

そして、ホーキングは、未来の人から見れば、我々と、このお婆さんに差はないと言います。

「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、そうかもしれないと思わせることが起こっています。


◆最低の馬鹿と言われた世界一IQ(知能指数)が高い女性

1990年の話です。

アメリカで、モンティ・ホール氏が司会を務めるテレビの娯楽番組で、こんなゲームが行われていました。

今日では、このゲームは「モンティ・ホール問題」という重要な数学問題になっています。


このゲームは、モンティ・ホール氏と1人の挑戦者との、2人の勝負として行います。

挑戦者の前には、A、B、Cの3つのドアがあり、そのどれか1つに景品の新車が入っていて、挑戦者が、新車が入っているドアを当てると、それを貰えます。

例えば、挑戦者がAのドアを選んだとします。

この時点では、まだAのドアを開けません。

そして、モンティ・ホール氏は、残りのBとCのドアのうち、新車が入っていない方のドアを開けます。

例えば、Bのドアを開き、その中には新車が入っていないことを示します。

そこで、モンティ・ホール氏は挑戦者に、

「このままAを選んでもいいですし、Cに変えても結構です」

と言います。

新車は、AかCのいずれかのドアの中に入っていますが、どちらに入っているかを挑戦者は知りようがなく、挑戦者が新車を得る可能性は50%です。


このゲームに対し、世界一IQが高いと言われる女性マリリン・ボス・サバント氏が、雑誌に「挑戦者は、選択するドアを変えるべき。それで正解率は2倍になる」と発表しました。

これに対し、「そんなはずがない」という、1万通もの批判の投書が殺到します。その投書の送り主には、百人の博士号保持者もいたと言われます。

その中の、大学教授を務める数学博士は、サバント氏を「大馬鹿者」と、公然と侮辱しました。

この数学博士を含め、ほぼ全ての人が、「ドアを変えようが変えまいが正解の確率は1/2に決まっている」と断言し、サバント氏がいくら説明しても無駄でした。

ところが、高名な数学者ポール・エルデシュ氏の弟子が、自分のパソコンでシミュレーションを行ったところ、なんと、サバント氏が正しいことが分かりました。

この記事の筆者である私は、昨年、出版した著書『楽しいAI体験から始める機械学習』(技術評論社)に、私が作った、モンティ・ホール問題のシミュレーションプログラムを載せました(VBA言語で書かれ、マイクロソフトExcel上で動きます)。

別に難しいプログラムではなく、当時のパソコンに無料で付いていたBASIC言語でも、十分、作ることが出来ます。

そんなプログラムで、サバント氏が正しいことがはっきり分かります。


◆理屈では決して理解出来ない

このモンティ・ホール問題を、理論的に説明する人が世界中に沢山います。

それは書籍や雑誌にも掲載され、子供でも解るように、図を駆使して懇切丁寧に説明したものもあります。

しかし、どんなに丁寧に、工夫し、上手く説明しても、「腑に落ちる」、つまり、直観的に、「なるほど!!」と思うことは絶対にないと思います。

それは、上に書いたように、並外れて頭の良い科学者でも解らなかったことや、このモンティ・ホール問題を、1冊の分厚い本で解説した著名な数学者がいることなどからも解ると思います。

実際、いまでも、モンティ・ホール問題を理屈で分かる人は、ほぼいないと思います。

まあ、サバント氏のように、IQが228もあるような人は別かもしれませんが・・・


◆AI(人工知能)は「モンティ・ホール問題」を簡単に理解出来た

ところで、筆者は、上記の『楽しいAI体験から始める機械学習』で書きましたが、モンティ・ホール問題のシミュレーションプログラムの実行結果をAIに学習(機械学習)させたところ、AIはあっさりと、モンティ・ホール問題を解いてしまいました。

ある著名な宗教人類学者が著書の中で、「誰かと2人で、モンティ・ホール問題のゲームを1万回やれば解る」と書かれていましたが、実際には、そんなことは不可能ですし、仮に、本当に1万回やっても、結果の記録(ドアを変えた場合、正解率が2倍になる)を見て「不思議だなあ」と思うだけでしょう。

しかし、AIは100回やれば大体見抜き、1000回で、ほぼ完全に理解しました。

AIは、「思考するマシン」ではなく、「推測するマシン」です。

つまり、AIは、モンティ・ホール問題を、論理的に解けるのではなく、結果を高い確率で推測出来るのです。

モンティ・ホール問題は、数学的には、挑戦者がドアを変えなかった場合に正解する確率は33.33%で、ドアを変えたら、正解する確率は66.67%です。

コンピューターで十分な数のシミュレーションを行うと、ほぼ、これとぴったりの数値が出ます。

AIの場合、AIの「モデル」の作り方で精度は変わるのですが、モンティ・ホール問題に関しては、簡単なモデルでも、ほぼ理論値通りの推測が出来ました。

つまり、今のAIにとって、モンティ・ホール問題は、簡単な問題なのです。

けれども、人間は、相当に頭が良い人でも、どれほど論理的思考や推測をしても、モンティ・ホール問題を解けないのです。

人間には解けない難しい問題を解く場合、

(1)コンピュータープログラム(シミュレーション等)で解く

(2)ビッグデータで解く

(3)AIで解く(現代ではディープラーニングが主流)

が考えられ、適切なものを選ばなければなりません。

AIで出来ることとビッグデータで出来ることは似ていて、根本的には同じであることも多く、同じ問題を両方でやってみることも多いと思います。

ただし、AIは、ビッグデータに比べれば簡単に使うことが出来るというメリットがあります。

AIで解くべき問題にAIを上手く適用することで、比較的手軽に、経済、政治、軍事、スポーツ等でライバルに勝てる可能性が高まり、医療、教育等でも飛躍的に効果を上げることが出来る可能性があります。

そして、AIは、実に多くのことに適用出来るのです。

目の前の問題にAIを適用出来るか?

そのためには、問題をどう捉え直せば良いのか?

それが解る優秀な人材が数多く必要になるはずです。


以上です。

記事中で取り上げました、当ブログオーナー、KayのAI書籍です。

数学やプログラミングでAIを語るのではなく、AIを使って問題を解決するための考え方を、楽しい実習を通して理解出来るようになることを目指しました。
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