我々は、地球が丸いことや、地球が自転しつつ太陽の周りを公転していることを知っています。
しかし、ほとんどの人は、そういったことを、本当に明白に理解している訳でも、また、自分で確かめた訳でもなく、単に、教科書に書かれていて、先生からもそう教わったので「解っている気になっている」だけと思います。
日本のように、全員が地球球体説や地動説を信じている国はむしろ珍しく、地球が平たいとか天動説を信じている人は、世界には珍しくありません。
スティーヴン・ホーキングの世界的ベストセラー『ホーキング宇宙を語る』の序章に、イギリスの偉大な数学者・哲学者・論理学者であるバートラント・ラッセルが、イギリスの地方の人々に地動説の講演を行った時の話があります。
講演後、ラッセルは、世界は亀の背中の上だと主張するお婆さんに言い負かされてしまいます。
そして、ホーキングは、未来の人から見れば、我々と、このお婆さんに差はないと言います。
「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、そうかもしれないと思わせることが起こっています。
◆最低の馬鹿と言われた世界一IQ(知能指数)が高い女性
1990年の話です。
アメリカで、モンティ・ホール氏が司会を務めるテレビの娯楽番組で、こんなゲームが行われていました。
今日では、このゲームは「モンティ・ホール問題」という重要な数学問題になっています。
このゲームは、モンティ・ホール氏と1人の挑戦者との、2人の勝負として行います。
挑戦者の前には、A、B、Cの3つのドアがあり、そのどれか1つに景品の新車が入っていて、挑戦者が、新車が入っているドアを当てると、それを貰えます。
例えば、挑戦者がAのドアを選んだとします。
この時点では、まだAのドアを開けません。
そして、モンティ・ホール氏は、残りのBとCのドアのうち、新車が入っていない方のドアを開けます。
例えば、Bのドアを開き、その中には新車が入っていないことを示します。
そこで、モンティ・ホール氏は挑戦者に、
「このままAを選んでもいいですし、Cに変えても結構です」
と言います。
新車は、AかCのいずれかのドアの中に入っていますが、どちらに入っているかを挑戦者は知りようがなく、挑戦者が新車を得る可能性は50%です。
このゲームに対し、世界一IQが高いと言われる女性マリリン・ボス・サバント氏が、雑誌に「挑戦者は、選択するドアを変えるべき。それで正解率は2倍になる」と発表しました。
これに対し、「そんなはずがない」という、1万通もの批判の投書が殺到します。その投書の送り主には、百人の博士号保持者もいたと言われます。
その中の、大学教授を務める数学博士は、サバント氏を「大馬鹿者」と、公然と侮辱しました。
この数学博士を含め、ほぼ全ての人が、「ドアを変えようが変えまいが正解の確率は1/2に決まっている」と断言し、サバント氏がいくら説明しても無駄でした。
ところが、高名な数学者ポール・エルデシュ氏の弟子が、自分のパソコンでシミュレーションを行ったところ、なんと、サバント氏が正しいことが分かりました。
この記事の筆者である私は、昨年、出版した著書『楽しいAI体験から始める機械学習』(技術評論社)に、私が作った、モンティ・ホール問題のシミュレーションプログラムを載せました(VBA言語で書かれ、マイクロソフトExcel上で動きます)。
別に難しいプログラムではなく、当時のパソコンに無料で付いていたBASIC言語でも、十分、作ることが出来ます。
そんなプログラムで、サバント氏が正しいことがはっきり分かります。
◆理屈では決して理解出来ない
このモンティ・ホール問題を、理論的に説明する人が世界中に沢山います。
それは書籍や雑誌にも掲載され、子供でも解るように、図を駆使して懇切丁寧に説明したものもあります。
しかし、どんなに丁寧に、工夫し、上手く説明しても、「腑に落ちる」、つまり、直観的に、「なるほど!!」と思うことは絶対にないと思います。
それは、上に書いたように、並外れて頭の良い科学者でも解らなかったことや、このモンティ・ホール問題を、1冊の分厚い本で解説した著名な数学者がいることなどからも解ると思います。
実際、いまでも、モンティ・ホール問題を理屈で分かる人は、ほぼいないと思います。
まあ、サバント氏のように、IQが228もあるような人は別かもしれませんが・・・
◆AI(人工知能)は「モンティ・ホール問題」を簡単に理解出来た
ところで、筆者は、上記の『楽しいAI体験から始める機械学習』で書きましたが、モンティ・ホール問題のシミュレーションプログラムの実行結果をAIに学習(機械学習)させたところ、AIはあっさりと、モンティ・ホール問題を解いてしまいました。
ある著名な宗教人類学者が著書の中で、「誰かと2人で、モンティ・ホール問題のゲームを1万回やれば解る」と書かれていましたが、実際には、そんなことは不可能ですし、仮に、本当に1万回やっても、結果の記録(ドアを変えた場合、正解率が2倍になる)を見て「不思議だなあ」と思うだけでしょう。
しかし、AIは100回やれば大体見抜き、1000回で、ほぼ完全に理解しました。
AIは、「思考するマシン」ではなく、「推測するマシン」です。
つまり、AIは、モンティ・ホール問題を、論理的に解けるのではなく、結果を高い確率で推測出来るのです。
モンティ・ホール問題は、数学的には、挑戦者がドアを変えなかった場合に正解する確率は33.33%で、ドアを変えたら、正解する確率は66.67%です。
コンピューターで十分な数のシミュレーションを行うと、ほぼ、これとぴったりの数値が出ます。
AIの場合、AIの「モデル」の作り方で精度は変わるのですが、モンティ・ホール問題に関しては、簡単なモデルでも、ほぼ理論値通りの推測が出来ました。
つまり、今のAIにとって、モンティ・ホール問題は、簡単な問題なのです。
けれども、人間は、相当に頭が良い人でも、どれほど論理的思考や推測をしても、モンティ・ホール問題を解けないのです。
人間には解けない難しい問題を解く場合、
(1)コンピュータープログラム(シミュレーション等)で解く
(2)ビッグデータで解く
(3)AIで解く(現代ではディープラーニングが主流)
が考えられ、適切なものを選ばなければなりません。
AIで出来ることとビッグデータで出来ることは似ていて、根本的には同じであることも多く、同じ問題を両方でやってみることも多いと思います。
ただし、AIは、ビッグデータに比べれば簡単に使うことが出来るというメリットがあります。
AIで解くべき問題にAIを上手く適用することで、比較的手軽に、経済、政治、軍事、スポーツ等でライバルに勝てる可能性が高まり、医療、教育等でも飛躍的に効果を上げることが出来る可能性があります。
そして、AIは、実に多くのことに適用出来るのです。
目の前の問題にAIを適用出来るか?
そのためには、問題をどう捉え直せば良いのか?
それが解る優秀な人材が数多く必要になるはずです。
以上です。
記事中で取り上げました、当ブログオーナー、KayのAI書籍です。 数学やプログラミングでAIを語るのではなく、AIを使って問題を解決するための考え方を、楽しい実習を通して理解出来るようになることを目指しました。 Excelが使えるスキルがあれば、理系・文系を問いません。 本書のほぼ全ての実習が出来るデータを作ることが出来るExcelマクロを出版社サイトから無料でダウンロード出来ます。 |
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